日本が追加輸入を表明した米国産トウモロコシ、「食用」と誤認した人々が “的外れな政権批判” を繰り広げる事態となる

 フランスで行われている G7 を機に行われた日米首脳会談で「日本が(中国が輸入しない)アメリカ産トウモロコシを追加で輸入する」と発表されたと NHK が報じています。

 購入するのは『デントコーン』と呼ばれる「飼料用トウモロコシ」なのですが、『スイートコーン』など「食用トウモロコシ」を輸入すると勘違いした人々が滅茶苦茶な論理で政権批判を繰り広げる有様です。

 NHK も「食用トウモロコシ」を “資料映像” として用いており、畜産業に疎い内容の記事となっています。

 

 今回の日米首脳会談を受け、日本がアメリカ産のトウモロコシを追加で輸入することになりました。国内で害虫の被害が確認されたため、日本企業が輸入を前倒しするということです。

 これは安倍総理大臣とトランプ大統領が共同の記者発表で明らかにしたものです。

 政府関係者によりますと、追加で輸入するのは飼料用のトウモロコシおよそ250万トンで、年間の輸入量の3か月分にあたる規模だということです。

 

日本国内の畜産業で用いられる飼料は大部分を輸入に頼っている

 畜産業には飼料が必要ですが、日本国内で用いられている飼料の大部分は輸入に頼っています。これは農研機構が発表した資料(PDF)から確認することが可能です。

画像:日本国内の飼料の現状

 国産飼料の割合が高いのは牛乳などを生産する酪農です。これは乳牛の主食が “牧草” であるため、『粗飼料』を与える機会が多いことに起因しています。

 日本国内でも飼料用トウモロコシは栽培されていますが、実(= 粒)・茎・葉を一緒に切り刻んで発酵させた『サイレージ』として使われ、最終的に『粗飼料』となります。

 今回、追加輸入が発表された飼料用トウモロコシは『濃厚飼料』の原材料になる『粒のデントコーン』です。したがって、国内の生産農家との競合関係には該当しておらず、この点で日本政府の対応を批判するのは誤りと言えるでしょう。

 

飼料用トウモロコシの輸入量は年間1000万トン

 次に、日本政府が追加で輸入を決定した飼料用トウモロコシは年間で約1000万トン(2016年度)が輸入されています。

画像:飼料原料の輸入量

 「誰が食べるのか」との声がありますが、牛・豚・鶏など畜産動物が消化します。今回の追加輸入分は250万トン(= 金額ベースで数百億円)ですから、『飼料・3ヶ月分』に過ぎない規模です。

 『粒のデントコーン』は備蓄も可能です。アメリカでは「港湾労働者によるストライキ」が時折発生するため、貯蔵が可能な必需品を備蓄しておく意味はあると言えるでしょう。

 また、今回の追加輸入により、養鶏・養豚を営む(日本国内の)事業者にとっては「エサ代を低く抑えることができる」という恩恵を享受することができる期待感もあります。この点についても評価する必要があるはずです。

 

「最大の輸入先であるアメリカの “ダブつき分” を安価で仕入れること」に否定的になる理由はない

 農水省が発表している品目別輸入実績のトウモロコシをグラフにすると、以下のようになります。

画像:トウモロコシの輸入金額と輸入量

 トウモロコシの最大輸入先はアメリカであり、2014年以降は年間1200万トンの輸入が続いています。金額は「為替」や「中国との獲得競争」などで変動はあるものの、年3000億円弱が目安になっていると言えるでしょう。

 将来的には「購入費が高騰するリスク」を避けるため、ある程度は国内で生産できる体制を整えたいところです。しかし、今は実証実験中の段階に過ぎず、価格を引き下げる要因になるまでには時間がかかることは否定できません。

 少なくとも、今後 5〜10 年は輸入先を多角化することが最重要課題ですから、その中で最大輸入国の “ダブつき分” を引き取り、恩を売ることは悪い判断ではないと言えるはずです。

 

 今回の追加輸入は「通常価格で獲得していれば悪くない判断」、「少しでも安価で獲得していれば良い判断」と言えるでしょう。『B to B』で用いられる輸入品目を『B to C』と誤認して批判を展開したメディアや識者は冷静になる必要があると言えるのではないでしょうか。