NPB、ドーピング規定に違反したバティスタ(広島カープ)に「オフシーズンを含めた6ヶ月の出場停止」という大甘の処分を下す

 NPB (日本野球機構)は「6月初旬に採取した検体からドーピング反応が出た」として広島カープに所属するサビエル・バティスタ選手を6ヶ月の出場停止処分に科すと発表いたしました。

 この処分は大甘と言わざるを得ないでしょう。なぜなら、オフシーズン中に出場停止期間の大部分を消化できるからです。2020年のオープン戦からバティスタ選手を起用できるのですから、処分の基準を見直す必要があるはずです。

 

 サビエル・バティスタ選手に対し、2019年9月3日から2020年3月2日まで、6か月間の出場停止処分を科する。

 NPB が発表した問題の時系列は以下のとおりです。

6月7日 バティスタ選手から検体を採取
7月24日 『クロミフェン』と『クロミフェンの代謝物』の検出が分析機関から NPB に報告される
同26日 広島カープ関係者が立会い、バティスタ選手に「A検体からの陽性反応」を通告。選手は「意図的な摂取ではない」と否定
8月16日 選手から要望されたB検体の再調査でも陽性反応が出たと報告される
同21日 選手に再弁明の機会が与えられ、「「意図的な摂取ではない」と改めて否定

 『A検体』の検査結果に約1ヶ月半を要したため、広島カープがバティスタ選手に疑惑が浮上しているのを知ったのは7月下旬です。疑惑の選手を1ヶ月弱に渡って起用していたのですから、この点に対する責任と説明は避けられないと言えるでしょう。

 なぜなら、検出されたのは「クロミフェン」であり、『クロミフェンが含まれた医薬品』を男性が日常的に摂取するケースは極めて稀だからです。

 

クロミフェンを使ったドーピングの手口

 クロミフェン自体にドーピングの効果はありません。なぜなら、日本でクロミフェンは「不妊症の排卵誘発」を目的に承認されており、処方されるのは基本的に「女性」です。

 男性がクロミフェンを意図的に接触する理由はないのですが、ドーピングに関してだと利用価値があります。

  • ステロイド系薬物(= Anabolic Androgenic Steroid, AAS)
    • 筋肉増強剤として利用され続けている
    • 「ホルモンバランスが崩れる」という副作用がある
  • クロミフェン
    • 「ステロイドの摂取で崩れたホルモンバランスを正常に戻す」という使い方が可能

 要するに、『クロフェミン』は『ステロイド系薬物』の使用を隠すための『マスキング物質』であるから、禁止薬物に指定されているのです。バティスタ選手が陽性反応を示した件では “この手のドーピング” が疑われているのです。

 

全日本の自転車競技大会で同様の薬物を使ったドーピング問題が発覚している

 バティスタ選手に疑惑の目が向けられているのは2018年5月に行われた全日本プロ選手権自転車競技大会でドーピングが発覚(PDF)したからです。

  • ある競技者の検体から『メタジエノン(= ステロイド系)の代謝物』と『クロミフェンおよびその代謝物』の陽性反応が出る
  • 競技者は「体内の侵入経路には全く心当たりがない」と主張
  • しかし、意図的でないとの主張・立証を行わず、『B検体』の再検査要求もせず
  • 日本アンチ・ドーピング機構から「4年間の資格停止処分」が下る

 本人が知らない間に禁止薬物を摂取するケースも現実に発生します。ただ、その場合は「意図的でなかった」と選手側が主張し、主張の根拠を立証しなければなりません

 不可能と思われるかも知れませんが、アメリカで実際に起きているのです。

 2018年に行われた自転車トラックレースの全米大会で、世界記録を樹立して優勝していた90歳の男性が、ドーピング違反によりタイトルと記録を剥奪された。米国反ドーピング機関(USADA)が発表した。

 (中略)

 グローブ氏から情報提供を受けたUSADAは「レースの前の晩に食べた肉に禁止物質が含まれ、それが原因で陽性となった可能性が高い」と話している。

 また、グローブ氏が大会前に摂取したというサプリメントに、原材料の欄に記載されていない禁止物質のクロミフェン(clomiphene)が含まれていたことも分かったが、前日の検査はパスしていたため、剥奪されるのは陽性反応を示した日に行われた個人パシュートの結果のみとなった。

 ドーピングの世界最高齢記録を樹立することになったアメリカ人男性のケースですが、「本人の落ち度がないこと」は明らかです。つまり、疑惑を持たれたアスリートが潔白を訴えるなら、捜査機関などに情報提供をすることは必要不可欠と言えるでしょう。

 したがって、バティスタ選手が「信じてください」と言うだけでは不十分なのです。

 

NPB は「6ヶ月の出場停止」ではなく「公式戦70試合の出場停止」を科さなければならない

 ドーピング陽性反応が出たバティスタ選手や情報公開に消極的な広島カープが批判されるのは当然ですが、NPB の処分も「大甘」との理由で厳しい批判にさらされるべきでしょう。

 なぜなら、バティスタ選手に下された「6ヶ月の出場停止」はシーズンオフに大部分を消化できるからです。

 2020年の3月上旬には起用が可能になるのですから、オープン戦に間に合います。また、処分が開ける1ヶ月前から球団施設が使えるなら、助っ人外国人の一般的な来日スケジュールと変わりません。したがって、以下の処分に変更すべきです。

  • バティスタ選手を公式戦70試合の出場停止処分とする
  • 出場停止処分の消化が完了するまで、NPB に加盟するプロ野球球団の支配下選手として試合に出場することはできない

 処分の肝にすべきは「年間で行われる全公式戦の半分で出場停止」にすることです。現状はドーピングの発覚時期がシーズン後半であれば、公式戦のないオフシーズン中に出場停止期間を消化できてしまうのです。これは改善点と言えるでしょう。

 公式戦の試合数で出場停止処分を科し、それ終わるまでは「NPB が関与するあらゆる試合(= クライマックスシリーズや日本シリーズなど)に出場する資格はない」とすれば公平になります。バティスタ選手に下された処分は広島カープ以外の球団が損をする内容と言わざるを得ないからです。

 

 プロ野球界全体が「バディスタ選手の陽性反応」を機に、通知・公表の時期や対応について見直す必要があると言えるのではないでしょうか。