千葉県の森田知事、台風15号の被害復旧を行う東電に「不眠不休で当たるよう強くお願いしたい」と時代遅れの要望を述べる
NHK によりますと、台風15号によって県内に大きな被害が発生している千葉県が災害対策会議を開いたとのことです。
会議後に森田知事が「東京電力には不眠不休で復旧作業をやってもらうよう強くお願いしたい」と記者団に語っていますが、これは作業効率を悪化させるだけの愚策です。行政のトップがこのような発言をすること自体が厳しい批判にさらされるべきと言えるでしょう。
千葉県に甚大な被害を出した台風15号について、千葉県は2回目となる災害対策本部会議を開き、森田知事は東京電力に対し、全力での早期復旧と正確な情報提供を改めて要請するとともに、農林水産業への被害が極めて大きいとして政府に支援を求めていく考えを示しました。
(中略)
会議のあと、森田知事は記者団に対し「県民の生活は電気がなければどうにもならない。東京電力にはぜひとも不眠不休でやってもらうよう強くお願いしたい」と述べました。
東京電力は既に『24時間体制』で復旧作業に当たっている
まず、(千葉県内の)送電網を管理する東京電力は『24時間体制』で復旧作業に当たっています。しかし、被害の規模が「東電の持つ復旧能力を大幅に超過」していれば、復旧に時間がかかるのは当然です。
- 電線に飛来物が絡まる
- 電柱が根元から折れて倒壊する
- 変電設備や装置が破損する
- 倒木や土砂崩れで送電線まで到達できない
上述した内容が「復旧に時間を要する障害」の代表例でしょう。しかし、これらが「単発」で発生しただけでは復旧に手間取ることはありません。なぜなら、被害の少ない迂回路を優先的に復旧させることで停電を解消することが可能になるからです。
ですが、千葉県ではそうはなりませんでした。これは「被害の発生件数が多い上、発生箇所も広範囲に及んでいる」と考えられます。そのため、「復旧作業が進んでいるようには見えない」という問題が起きていると言えるでしょう。
「不眠不休」の要求が認められるのは『72時間の壁』が迫っている時だけ
森田知事が東京電力に「不眠不休」を要請しているのは「不満の声が千葉県に寄せられるのを避けたいから」でしょう。これと同じ論理で動いているのは経産省です。
行政は電力復旧に何の貢献もしません。送電網を修繕するのは電気工事士の資格を持った “現場の技術者” ですし、彼らは電力会社に所属していたり、電力会社から業務を受注した規模の小さい民間企業の所属です。だから、電力会社に “圧力” をかける発言を平気で行っているのでしょう。
なぜなら、仮に労災や作業ミスが発生したとしても、「不眠不休で復旧作業に当たれ」と恫喝した経産省や千葉県は責任を取らずに済むからです。
このような背景があるなら、「疲労による作業効率の悪化」という現実を無視した無理筋な要求が平気でできるのです。
『不眠不休での作業要請』が認められる唯一の例外は「災害発生で “72時間の壁” が迫っている行方不明の生存者捜索」の場合だけでしょう。それ以外の場合は作業員に十分な休養を与えた上での『交代制を採用した24時間体制』による復旧作業が最善策と言えるはずです。
『発送電分離』が完了する2020年以降は「災害復旧が現状よりも悪化」することは不可避
復旧に時間がかかっていることに千葉県(や経産省)は不満を示していますが、来年以降は「復旧により時間がかかる」ことになるでしょう。なぜなら、2020年に発送電分離が行われるからです。
送電網の維持・管理を担ってきたのは地域独占が認められた東電などの電力会社(旧・一般電気事業者)でした。
旧・一電は送電網の維持管理費を「コストの低い発電方法から得た収益を回すこと」で捻出していました。だから、一定の収益を確保し続けることが可能であり、復旧用の資材や人員を保持しておくことができたのです。
しかし、発送電分離をすると上述の形で送電網の維持管理費を捻出することができなくなります。得られるのは「託送料」だけです。しかも、新規参入組は「託送料を払いたくない」と不満を表明していることから、送電網のメンテナンスを行うに十分な収益を得ることは難しいと予想されます。
つまり、『送電会社』の経営体力は「『旧・一電』の時より比較にならないほど低い」と見積もらざるを得ないのです。これは「送電網の維持・管理に経営資産を回す余力がない」ことを意味しており、復旧作業に費やす人材や資材が不足することになるからです。
旧・一般電気事業者への無理筋な要求によって大手電力会社の疲弊を招いている状況となっている側面も否定できないのです。現実を見据えた上で過去の災害対応で明らかになった「やるべきこと」と「やるべきでないこと」を踏まえた対応を行政が率先して行う必要があると言えるのではないでしょうか。