朝日新聞が社説で千葉県内での大規模停電に対し、敷設費用や地震・水害のリスクを無視して電線地中化をすべきと主張する
台風15号の影響で千葉県を中心に大規模停電が発生したことに対し、朝日新聞が社説で東京電力を厳しく批判しています。
「見通しが甘かったと批判されても仕方ない」と言い切っていますが、本当にそう思っているなら、紙面で台風によって大きな損害が起きるリスクに対して警鐘を鳴らしていたことでしょう。
しかし、そうしたことをせず、後出しで批判を展開しているのです。朝日新聞は電力会社の経営状況を悪化させる片棒を担いだ存在であり、自分たちが復旧の足を引っ張っている事実から目を背けることは問題と言わざるを得ないでしょう。
台風が去った後も天候が不安定で、断続的な作業にならざるを得なかったうえ、房総半島の山間部などで倒木の多さに手間取ったというが、見通しが甘かったと批判されても仕方がない。きめ細かで、確実な情報発信の徹底が求められる。
復旧後には、大規模停電の原因や、なぜ復旧作業に時間がかかったのかを、厳しく検証する必要がある。他の電力会社を含め、停電を起こさぬ努力だけでなく、よりスムーズに復旧できる態勢をつくるためだ。
(中略)
昨年は北海道地震でブラックアウトが起き、台風21号でも関西でのべ約220万戸が停電した。長期的には電線の地中化が有効な対策である。コストはかかるが大規模停電の影響と復旧費用を考えれば、国も電力会社も無電柱化に力を入れる時だ。
山間部などで発生した倒木を除去する責任は「地方自治体」にあり、樹木の管理責任は「土地所有者」にある
朝日新聞は「房総半島の山間部での倒木の多さは予見できるものだった」と社説で主張したいようですが、そのように主張するなら批判の対象を間違えています。
なぜなら、道路を管理するのは地方自治体です。県道や市道・町道・村道と道路は地方自治体が管理しており、電力会社は一般利用者と同じです。そのため、電力会社に「倒木が多くなることも想定していないのか」と批判するのは筋違いと言わざるを得ないでしょう。
また、樹木を管理する責任は土地所有者にあります。
「東電が保有する土地に群生する樹木の倒木に対する処理に手間取った」のであれば、朝日新聞の批判は真っ当なものと言えるでしょう。しかし、他者が保有する土地に群生する樹木を切り倒す権限は東電にも地方自治体にもないのです。
同様の被害が起きることを軽減したいなら、それが可能となるように朝日新聞が紙面で法案改正を呼びかける論説を展開するべきと言えるでしょう。
停電の復旧作業は『人海戦術』が基本であり、経営状況が良好なほど迅速な動きが可能になる
千葉県での大規模停電の復旧に時間がかかる理由はツイッター・ユーザーの @KGN 氏が分かりやすく説明しています。
つまりこういう事ですからねえ……
— KGN (@KGN_works) September 14, 2019
一か所切れた時の被害発生数は田舎のほうが小さいですけど、今回のように「あっちこっちで切れまくった場合」はなかなか回復が進みません。
(図では鉄塔が倒れた事故を省いて描いてあります) pic.twitter.com/RUY4AgVxSA
復旧作業に要する時間は場所に依存しません。復旧に差が出るのは「現場へのアクセス時間」と「修繕箇所数」です。
倒木で現場までの道が寸断されていれば、復旧作業の開始時間がそれだけ遅れることになります。また、修繕箇所が多ければ、それだけ復旧作業の総時間が増えることになります。
復旧作業には電力会社の技術者が(他社からの応援を含めた)総動員体制で行っています。つまり、『人海戦術』が基本であり、自社や協力会社に災害時の緊急依頼ができるだけの経営体力を有しているか次第で投入できる作業員に差が生じる可能性は認識しておく必要があると言えるでしょう。
電線地中化が効果を発揮するのは「強風による被害」で、「地震や浸水による被害」には脆弱である
朝日新聞は台風15号によって発生した大規模停電に対し、「電線地中化」を有効な対策として訴えています。しかし、電線地中化による効果が見込めるのは「強風による被害」だけであり、台風が引き起こすリスクがある他の問題には脆弱なのです。
例えば、高潮のような水害です。浸水が生じた地域では「地中にある電線」はリスク要因となります。また、地震で断層が生じたり、液状化が発生した場合も同様です。
しかも、電線地中化には地下に送電網を整備する必要があるため、敷設の初期費用が膨大なものになります。これらはすべて電気代として電力消費者が負担しなければならないことです。
電柱を使った送電網の場合、架線の切断は目視確認が容易というメリットがあります。一方で地中に敷設されている場合は目視が難しく、修繕箇所の特定が現状よりも要するという思わぬデメリットもある状況なのです。
したがって、朝日新聞が社説で主張する解決策は「机上の空論」でしかないと言わざるを得ないでしょう。無責任な立場だから、現実問題を無視した論調になるのです。
“地震大国” であることを理由に原発再稼働を批判し続ける朝日新聞が「地震によるリスク」を完全に無視して『電線地中化』を口にしている時点でまともに取り合う必要はないと言えるのではないでしょうか。