『18歳未満の国際移籍を禁じた FIFA 規約』を日本サッカー協会が適用したことに対し、高校サッカー界から不満の声が上がる

 千葉日報によりますと、日本サッカー協会(= JFA)が『18歳未満の選手の国際移籍を禁じた FIFA の規約』を適用したことで留学生が高校サッカーの公式戦に出場することが不可になると報じています。

 高校サッカーの関係者からは不満の声が出ていますが、この事例は日本代表の久保建英選手がバルセロナから退団することになった理由に合致しています。そのため、不満の声が出ることの方が問題と言わざるを得ないでしょう。

 

 高校サッカーで、外国人留学生の公式戦出場禁止を検討していることが9日、千葉県内関係者への取材で分かった。他県の高校サッカー部の留学生を巡り、国際サッカー連盟(FIFA)が制裁を科したことが要因とみられる。

 (中略)

 出席した県内高校関係者が取材に応じ「あまりにも突然の話で驚いている。説明も不十分で納得いかない」「教育現場の声を集めた議論の機会はまったくなかった。せめて複数年時間を掛けて慎重に議論すべきだし、全国の高校関係者も驚くはず」と話した。

 高体連からも「初めて聞いた」と驚きの声が上がり、高体連に説明なくJFAだけで決定する点を問題視。関係者は「全国各地で反論の動きは出てくるだろうが、説明を聞く限り10日の理事会で可決されてしまうだろう」と嘆いた。

 

18歳未満のサッカー選手が国外に移籍することは “例外的な場合” のみ承認されている

 まず、サッカー界を管轄する FIFA は18歳未満のサッカー選手による国際移籍を基本的に禁じています。これは「移籍金ビジネスが人身売買の温床になっている」という問題があるからです。

 そのため、以下の場合だけが「例外」として許可されています。

  1. 両親がサッカー以外の理由で移住した場合
  2. EU 加盟国の国籍を持つ16歳以上の選手が EU 内で移籍する場合
  3. 自宅が国境から 50km 内で、両国のサッカー協会からの許可がある場合

 日本の高校サッカーには「サッカー留学」が目的で来る訳ですから、未成年の国際移籍を禁じた FIFA の19条に抵触します。だから、日本サッカー協会が高体連の顔色を伺うことなく、上部組織に該当する FIFA の規定を厳格に適用することになったのです。

 

高校サッカーは FIFA が定める『連帯貢献金』を受け取る権利がある

 JFA が FIFA からの制裁を受けた高校が発生したことを受けて留学生の起用を制限する方向に舵を切った理由は「連帯貢献金の存在」でしょう。

 実はサッカー選手が移籍金の発生する形でクラブを移籍した場合、移籍金を受け取った側(= 選手を送り出した側)のクラブが「該当の選手がユース年代に所属したクラブに対して連帯貢献金を支払う責務を負っている」のです。

 連帯貢献金が発生するのは「12歳から23歳の誕生日を迎えるまでに選手登録をされていたクラブ」で、高校年代である16歳以上の『連帯貢献金』は「移籍金 x 0.5% x 所属年数」で算出されます。

 つまり、日本にあるA高校で3年間を過ごした留学生がプロのサッカー選手として1億円でチームを移籍すれば、A高校は150万円(= 1億円 x 0.5% x 3年)を受け取る権利があるのです。連帯貢献金は選手が移籍する際に移籍すれば、何度でも受け取ることが可能です。

 選手が移籍するごとに、選手がユース年代に所属していたクラブ(や高校・大学)に育成の連帯貢献金が手に入る訳ですから、青田買いが横行する土壌となります。だから、FIFA は18歳未満の未成年が国際移籍をすることを原則として禁止にしているのです。

 

久保建英選手もバルセロナに「留学」という形で在籍をしていた

 高校サッカー関係者の言い分としては「サッカー留学が目的ではない。日本に留学することが目的」との理由で反発が起きているのでしょう。

 しかし、この反論は筋が悪すぎます。なぜなら、久保建英選手が所属していた当時のバルセロナが同様の理由で FIFA に弁明したものの認められず、クラブは1年間の補強停止処分を受け、久保選手は日本に帰国することを選択したからです。

 「久保選手がバルセロナでのプレーができなくなった事例」と説明されて理解できないなら、その高校サッカー関係者に権限を与えてはなりません。なぜなら、その学校だけでなく、日本のサッカー界全体が FIFA からの制裁対象にされてしまう恐れがあるからです。

 どうしても留学生選手を起用したいなら、FIFA に加盟する JFA の管轄が及ばない試合を高体連が自主的に行うことが解決策です。それから、JFA も文句は言わないでしょう。

 

 サッカーは『国際ルール』が決まっており、それが他の球技と比較した際の強みにもなっています。スポーツ仲裁裁判所で争われて結論が出ている案件に対し、「慎重な議論が必要」などと “周回遅れ” の主張をしているようではアジアのライバル国からも遅れを取る可能性があると言えるのではないでしょうか。