共同通信が「日韓が徴用工問題を収拾するための合意案の検討に着手」と報じるも、日韓両政府が報道を否定する事態が発生

 共同通信が「日韓両政府が徴用工問題を巡り、事態収拾に向けた合意案の検討に着手した」と10月28日の夜に報じましたが、この内容が日韓両政府によって公式に否定されるという事態が発生しています。

 複数の関係筋がネタ元として記事では言及されていますが、誤報にしてはあまりに粗末な出来です。これは情報源を明らかにした上で再発防止策を公表しなければ話にならないレベルと言わざるを得ないでしょう。

 

■ 共同通信が報じた記事の内容

 共同通信が報じた問題の記事は以下のものです。

画像:共同通信が報じた記事

 日韓両政府が元徴用工問題を巡り、事態収拾に向けた合意案の検討に着手したことが28日、分かった。複数の日韓関係筋が明らかにした。これまでの協議で、韓国の政府と企業が経済協力名目の基金を創設し、日本企業も参加するとした案が浮上。1965年の日韓請求権協定で賠償問題は解決済みだとする日本政府の立場を踏まえた考え方とみられる。

 内容としては『1+1+α案』を基本形にしたものでしょう。韓国政府と韓国企業が基金を創設(『1+1』の部分に該当)し、そこに日本企業が “自発的に” 加わる(『+α』の部分に該当)という内容だからです。

 日本企業の参加が強制でなければ、合意に達する可能性はゼロではないと言えるでしょう。しかし、現実は限りなくゼロに近い状況です。

 そのため、この合意案を検討していることの真偽は別にしても、報じるメリットはない状態でした。

 

■ 事実

1:韓国外交部は共同通信の報道を否定

 共同通信が報じた内容は翌日に韓国外交部(=外務省に相当)が否定したことを中央日報が伝えています。

 韓国外交部は共同通信の報道を否定した。外交部当局者は「該当報道は事実でない。これまで韓国と日本の当局間議論過程で一度も言及されたことがない案」と話した。

 同当局者は「政府が司法の判断を尊重する中で、被害者と両国国民が受け入れられる合理的案を模索するのに開かれているという立場で、このような立場の下で日本の外交当局と疎通を持続している」と明らかにした。

 韓国政府の立場は「日本政府が謝罪をし、慰謝料を払え」というものです。その根拠は「韓国の司法がそう下したから」であり、国際条約である日韓基本条約を無視するものです。

 だから、「約束を守れ」との立場を採る日本政府の主張とは平行線のままなのです。したがって、日本側が条約を無視する韓国の主張に対して譲歩するために交渉の場を設ける可能性は極めて低いと言えるでしょう。

 

2:日本側も「立場は一貫」と共同通信の報道を否定

 一方の日本政府も29日に菅官房長官が記者会見で共同通信の報道を否定したことを時事通信が伝えています。

 菅義偉官房長官は29日の記者会見で「わが国の立場は一貫しており、変更はない」と述べ、1965年の日韓請求権協定に従い韓国側で解決を図るべきだとの考えを強調した。

 (中略)

 日韓両政府が徴用工問題の事態収拾に向け、韓国の政府と企業が経済協力名目の基金を創設し、日本企業も参加するとの合意案の検討に着手したとする一部報道について、菅氏は「そのような事実はない」と語った。

 日本政府はこれまで「日本側に資金を拠出させようとする韓国側のあらゆる提案」を門前払いにしており、その姿勢は今回の報道でも保たれたと言えるでしょう。

 なぜなら、「韓国への譲歩は必要なし」との世論が出ているからです。そうした民意が背後にある訳ですから、関係改善に急ぐ必要がない状況にあるのです。

 

3:日経新聞の世論調査で「譲歩は不要」と示されている

 韓国との関係改善を急ぐ必要がない理由は日経新聞が行った世論調査で示されています。

  • 問:日本政府が韓国との関係について、どのような姿勢で臨むべきか
    • 日本が譲歩するぐらいなら関係改善を急ぐ必要はない
      • 全体: 69%
      • 内閣支持層: 75%
      • 内閣不支持層: 64%
    • 関係改善のためには日本が譲歩することもやむを得ない
      • 全体: 19%

 全体の約70%が「韓国に譲歩してまで関係改善を急ぐ必要はない」と回答しているのです。しかも、内閣不支持層であっても 64% が「譲歩は不要」との立場なのです。この事実を韓国側や野党は認識しなければなりません。

 日本政府には「『従来の方針』を『世論調査で7割の人々が反対する方針』に転換するメリット」はありません。それを期待しているのは韓国側であり、記者やメディアの願望を記事にする意味はないと言えるのではないでしょうか。