共通テストの採点を請け負う業者が “実績” を掲げて営業を行うのは当然のこと、制約が設けられずに制度設計されたことが根本的な問題

 日経新聞によりますと、大学入学共通テストの記述式問題の採点業務を受注したベネッセが高校生向けの PR 資料に「採点を請け負っている」との記載をしていたことが明らかになり、文科相からの是正要望が伝えられたとのことです。

 こうした事態が起きることは事前に想定できたことですから、「何を今更言っているのか」という意見が多数派でしょう。制約を設けずに仕組みを作ったことが問題であり、根本的な対策を採る必要が場合によってはあると言えるでしょう。

 

 大学入学共通テストに導入される記述式問題を巡り、採点関連業務を受託したベネッセコーポレーションが、高校向けのPR資料に受託の事実を記載していたことが20日、分かった。萩生田光一文部科学相は「採点業務の中立性や信頼性に疑念を招くもので、厳重に抗議したい」と述べた。

 (中略)

 野党側委員は「資料への記載は利益相反だ」と指摘。萩生田氏は「事実を確認したので、きちんとした対応をしたい」と応じた。同省は「ただちに契約違反ではない」としながらも、20日に同社から事情を聴き、是正するよう伝えた。

 

“実績” を『営業用途』で使うのは当たり前

 まず、大学入学共通テストの記述式問題の採点業務を受託したベネッセがその実績を自社サービスの販売促進ツールに使うことは十分に想定されたことです。

 なぜなら、「記述式問題の採点業務の受託」はベネッセにとっての『実績』であり、どの業界でも『実績』を営業目的で使っているからです。

 「某有名企業に納入実績がある」という “セールス文句” は日常的に用いられていますし、「納入だけでもさせてくれ(=使わなくていいから実績を作らせてくれ)」という泣き落とし方法を耳にした経験を持っている人もいるでしょう。

 つまり、それだけ『実績』は営業時に効果が発揮しやすいものなのです。したがって、大学入学共通テストの採点業務においても、“一定の制約” は設けられているべきでした。

 ただ、それがなかったのですから、制度設計を行った文科省に対する批判は免れないと言わざるを得ないでしょう。

 

「大学受験希望者に対する教育サービスを提供していないこと」を条件付けしなかった理由はなぜなのか

 採点業務を請け負っている業者が『実績』を売り文句にすることは想定できたことです。受験生には「採点を請け負っているベネッセの模試を受けた方が本番に近い」との印象が強くなるため、市場の競争条件が歪むことは否定できません。

 したがって、大学受験希望者を対象にした教育サービスを提供している事業者は大学入学共通テストの記述式試験の採点業務を受注できないとの制約は設けておくべきでした。

 「別会社」という関係であっても、両社に影響を与える “親会社” の意向次第で採点基準が流出する恐れは十二分にあるのです。この問題点に関し、制限が設けられない制度を設計した文科省の責任も問われるべきと言わざるを得ないでしょう。

 なぜなら、制度を設計した段階で「(かなりの確率で)問題になること」が分かっていた問題に見舞われたからです。ベネッセに対して「PR 活動の是正」を要望するだけでは根本的な解決にならないと言えるでしょう。

 

一次試験に該当する『大学入学共通テスト』にまで記述式を導入する意味はあるのか

 マークシート式より記述式の方が「点差が付きやすい」傾向にあります。また、受験生の考え方を見ることもできるため、記述式が全否定されることはないでしょう。

 しかし、記述式の採点はマークシート式とは比較にならないほど労力が必要になるという問題点を無視することはできません。

 そのため、受験生の数が膨大になる一次試験はマークシート式が採用され、各大学ごとに行う二次試験は記述式で受験生の能力は十分に計れるはずです。これを変更しようとしているのですから、教育そのものが悪い方へと流れていることは否定できないでしょう。

 記述式や AO 入試の比重が重くなると、対策を講じるための資金を費やせる家庭が有利になります。留学経験やボランティア活動が評価されるのですから、親の資金力によって格差が固定されたままになるという良くない事態を招いてしまうことは避ける必要があるはずです。

 

 教育行政が掲げた目標そのものを再確認しなければなりませんし、前川喜平氏のような人物がトップの事務次官にまで上り詰めるような文科省の人事評価そのものも見直されるべきでしょう。根本的な部分から大鉈が振るわれるべき問題と言えるのではないでしょうか。