WeWork への投資で巨額損失を出したソフトバンクに対する追加融資で大手銀行が懸念を抱き出していると日経が報じる

 日経新聞によりますと、WeWork への投資で巨額損失を計上することになったソフトバンク・グループに対する追加融資に対し、メガバンクと呼ばれる大手銀行間で温度差が生じているとのことです。

 「自転車操業」に近い状態ですから、先行きを懸念して融資を躊躇する銀行が出てくることは当然です。「経営能力」か「投資能力」のどちらかに秀でていれば懸念は払拭できますが、そうではないから疑問が噴出しているのでしょう。

 

 ソフトバンクグループへの追加融資をめぐり、大手行の温度差が広がってきた。焦点はソフトバンクGが運営するファンドの投資先で、巨額の損失を計上したシェアオフィス「ウィーワーク」だ。その再建で資金需要が拡大するソフトバンクGに理解を示す向きがある一方、融資の規律を理由に慎重論を唱える銀行からは資産売却による自助努力を求める声があがる。

 (中略)

 ソフトバンクGと大手行の協議が表面化した21日朝、みずほ以外の大手行の幹部は「融資を無尽蔵に積み上げられるわけではない」と慎重な姿勢に終始した。すでに1つの企業グループに融資できる上限額へ近づきつつあるからだ。

 

「WeWork への投資失敗」だけでソフトバンク・グループへの評価は激変しない

 ソフトバンクGがビジョン・ファンドを通して行った WeWork への投資に失敗したことは事実です。「割高な価格帯で未公開株を購入しても IPO で利益を出せる」と “突撃” したことが裏目に出ました。

 とは言え、自己資本が今年3月の時点で9兆円もありますし、アリババ集団への含み益は10兆円とソフトバンクGの資金力は「WeWork への投資失敗」ぐらいで揺らぐことはないでしょう。

 ただ、「他にも(WeWork と)同じ失敗をする」との懸念は払拭できません。革新的な企業に投資しているのではなく、「ユニコーン企業だ(と見られている)から」との理由で “過剰な資金” を投入しているのです。

 ソフトバンクが投資先の経営を改善させたり、投資先の企業が伸びていれば、懸念は杞憂に終わります。しかし、アメリカの携帯大手スプリントの経営は上向かず、WeWork も杜撰な経営が明るみに出ました。

 「経営能力」と「投資能力」の双方に疑問が生じる実態が現れたのですから、ソフトバンクに融資を行う銀行が引き際を考えるのは自然な流れと言わざるを得ないでしょう。

 

ソフトバンクとの取引を望む銀行が門前市をなすなら、メガバンクが融資の介入に舵を切っても問題はない

 日経新聞の記事で奇妙なのは結びに以下の部分があることです。

 次々にディールを繰り出すソフトバンクGがもたらす手数料や支払利息は巨額で、世界中の金融機関が親密な関係を築こうと門前市をなす。

 世界中の金融機関がソフトバンク・グループと良好な関係を築こうとしているなら、融資を得ることのハードルは低いはずです。なぜなら、ソフトバンクは “最も良い条件” を提示した金融機関を選べる立場にあるからです。

 一方で、ソフトバンクに融資済みの金融機関は「融資をリセットする」ことが可能になります。他の金融機関が融資を引き受ければ、「融資の上限に達しつつある状況」は起こりえないですし、利率の低い融資を受けることで(利率の高い融資の)返済が早まることもあるはずです。

 課税逃れに奔走する企業が「融資の乗り換え」という合法手段を駆使していないのは奇妙なことだと言えるでしょう。

 

『投資企業』に事業形態を変えるのであれば、利益確定のための “売り要求” が強まるのは当然のこと

 ソフトバンクの事業形態は『投資会社』へと変化しつつあるのですが、問題なのはグループが抱えている債務が大きすぎることです。実体経済への影響が懸念されることですし、融資を行った金融機関の経営が傾くリスクも軽視できない状況にあるのでしょう。

 だから、「事業売却をすることで債務返済を進めるべき」との声が強くなっているのです。

 投資では利益を確定させなければ、収益を手にすることはできません。「株価が上がった状態で売却すること」が欠かせません。『投資会社』として不味い経営判断が散見され始めている以上、銀行が事業売却による融資の回収を急ぐことは不思議ではないと言えるはずです。

 “見る目” が落ちると、手痛い失敗を繰り返すことになります。そこで修正できれば挽回は十分に可能ですが、その兆しがソフトバンクに見えていないことが金融機関に不安を抱かせる原因になっていると言えるのではないでしょうか。