ドイツ・メルケル政権の連立与党のトップに懐疑派が就任、政権の先行きが不透明になる

 日経新聞によりますと、11月30日にドイツの連立与党・社会民主党(SPD)の次期党首を決める決選投票が行われ、連立政権に懐疑的な候補者が勝利したとのことです。

 『SPD』は同じ政治的主張を掲げる『緑の党』に支持者を奪われ、党の退潮が止まっていません。そのため、「左派色の強い政策を実現すること」を連立存続の条件にすることが予想されるため、政権の先行きが不透明になったと言えるでしょう。

 

 メルケル政権の連立与党の一角、ドイツ社会民主党(SPD)は30日、次の党首を決める決選投票で連立懐疑派のワルターボーヤンス氏とエスケン氏のペアが勝利したと発表した。連立維持派との一騎打ちだったが、党の退潮が止まらないなか、路線変更を求める声が広がっていた。

 (中略)

 ワルターボーヤンス氏らが党首になっても、すぐに連立離脱に踏み切るとは限らない。同氏らは現在の連立協定を見直し、気候変動対策やインフラなどへの大胆な投資や最低賃金の引き上げなどの政策を実現できるのであれば、政権にとどまる意向とみられている。

 

“連立政権の毒” が回ったドイツの2大政党

 ドイツ・メルケル政権の先行きにますます怪しくなっている理由は「2大政党に “連立政権の毒” が回ったから」でしょう。なぜなら、以下のようなことが起きるからです。

  • キリスト教民主同盟(= CDU)
    • 中道右派の第1党
    • メルケル首相の出身母体
    • SPD との連立で「党内左派寄りの政策」を強いられる
  • 社会民主党(= SPD)
    • 中道左派で2大政党の一角
    • CDU との連立で「右派の政策」への賛成を強いられる

 連立政権を組むと、掲げていた基本政策を妥協することを余儀なくされる可能性があります。政治は「掲げた理想」ではなく「実行した結果」で評価される傾向にありますから、連立政権への参加にはリスクがあるのです。

 ドイツの場合、中道右派の『CDU』は「左派が求める政策」を実施したことで、支持者が『AfD(= ドイツのための選択肢)』に流れました。一方で『SPD』は「右派が期待する政策」に賛同したことで、支持者を『緑の党』などに奪われています。

 どちらの政党にも “毒” が回っているのですが、第1党ではない『SPD』の方が深刻な状況です。だから、以前の選挙でも「連立から脱退」が真剣に議論されていましたし、今回の党首選挙でも懐疑派が選出される結果になったのでしょう。

 

日本で自公連立政権が長続きする理由は「野党に取って代わるだけの能力がない」から

 連立政権と言えば、日本の安倍政権も『自民党と公明党による連立政権』です。連立政権ですから、ドイツなどの事例のように “毒” が回っているはずなのですが、その効果は現れていないと言えるでしょう。

 その理由は「野党の能力不足」です。

 野党は「安倍政権に反対する」と訴えるだけで、『政権奪取後の計画』を全くと言っていいほど言及していません。この状態の野党を支持することは「安倍政権を倒した “ご褒美” に『白紙委任状』を現・野党に手渡す」のと同じです。

 「自民党政権を倒す」と述べた期待感だけで有権者が『白紙委任状』を手渡してしまったことで誕生したのが民主党政権なのです。当時の政権首脳が何の反省もせず、二匹目のドジョウを狙っているような政党を(痛い思いをした有権者が)支持することはまずないでしょう。

 しかも、マスコミがそうした政党や所属議員が起こす数々の問題行為を見て見ぬ振りをするのですから、連立政権による嫌気を持った有権者の受け皿にもならないのです。受け皿となる政党が存在している点ではドイツの方が明らかにマシと言えるでしょう。

 

SPD は『緑の党』に奪われた支持者を取り戻すために「左派政策の実施」が必要不可欠

 ドイツ政治の行方ですが、「SPD の新執行部が示す政策内容次第」と言えるでしょう。SPD の党勢を回復させるためには「『緑の党』に流出した有権者を取り戻すこと」が必須です。

 そのためには「中道左派が掲げる政策を実現できるのは SPD」と証明する必要があるため、まずは連立政党である CDU の出方を見るはずです。

 SPD が提示した『左派寄りの政策』を実行してくれるなら、連立を解消する必要はありません。それが実績となりますし、「外野で文句を言っているだけの『緑の党』とは違う」と演説することも可能になるからです。

 CDU が『左派寄りの政策』を拒否するなら、連立を解消し、原点回帰で執行部そのものを若返りを図った上で捲土重来に向けた準備をすれば良いことです。「CDU の中道右派政策に寄りすぎたことが失敗」と新執行部の下で “総括” が可能であり、復活の足がかりは残された状態と言えるでしょう。

 一方でレームダックと化しているメルケル首相にとっては難しい舵取りが迫られることになります。『イギリスの EU 離脱』という嵐が起きることが避けられなくなっている中で、ドイツの先行きが不透明になりつつあることも懸念事項と言えるのではないでしょうか。