他部門の利益を食って大赤字を出している UberEats の配達員が「報酬切り下げに反対」と主張しても理解は得られない
宅配サービスを行う UberEats の配達員が「報酬6割カット」に反対し、労組を通す形で団体交渉を会社に求めているとテレビ朝日が報じています。
このニュースで扱われている情報だけでは労働者側に世間の同情が集まることでしょう。しかし、UberEats は赤字を出している不採算部門なのです。不採算部門の労働者がコスト削減を決定した会社の方針に不満を訴えていることが実情なのですから、異なる視点を持つことが重要と言えるでしょう。
抗議しているのはウーバーイーツの配達員たちです。「報酬切り下げに反対」といったプラカードを掲げています。配達員はウーバー側との話し合いを求めていますが、5日朝は門前払いとなりました。
ウーバーの配達員の仕事はユーザーがアプリを使って注文した料理を自転車やバイクを使って飲食店に取りに行き、ユーザーに届けることです。その配達員の報酬体系が先月下旬に改訂され、1キロあたりの距離の報酬が150円から60円に約6割カットとなりました。
『配車事業(Rides)』の利益を『宅配事業(Eats)』が食い潰しているのが Uber の現状
11月下旬に UberEats (ウーバー・イーツ)の配達員の報酬体系が改訂されることになった背景は「Ubar の第3四半期決算が芳しくなかったから」でしょう。なぜなら、以下のような内容だったからです。
項目 | 2019年 | 2018年 | |
---|---|---|---|
売 上 高 |
Rides(ライドシェア) | 2,895 | 2,425 |
Eats(イーツ・宅配) | 645 | 394 | |
Freight(貨物) | 218 | 122 | |
全体 | 3,813 | 2,944 | |
調 整 後 利 益 |
Rides(ライドシェア) | 631 | 416 |
Eats(イーツ・宅配) | (316) | (189) | |
Freight(貨物) | (81) | (31) | |
管理・間接費、R&D | (623) | (501) | |
全体 | (585) | (458) |
Uber で収益を残すことができているのは「ライドシェア(配車部門)」のみです。
配達員が団体交渉を要求している UberEats は前年同期比から売上高を伸ばすも、調整後 EBITDA (利払い・税引き・償却前利益)の赤字額も増加しています。
業績を拡大するほど赤字額が大きくなっているのですから、「そもそものビジネスモデルに問題がある状況」と言えるでしょう。だから、赤字を計上する原因となっている『報酬』にメスが入れられる事態を招いたのです。
「不採算部門のコスト削減」は経営再建策の定石であり、業務受注者である側の反対意見が通る見込みは少ない
Uber は「出前を配達を請け負う業務」が不採算部門と化しているのですから、経営陣が業務改善策を打ち出すのは当たり前です。Uber は「配達料の値上げ」ではなく、「配達員の報酬引き下げ」を選択しました。
これは UberEats のビジネスモデルが「宅配を個人事業主に委託する」という形態だからでしょう。
Uber は「部門の不採算」を理由に UberEats の委託報酬を引き下げました。つまり、外注という形で市場に提示していた「配達員の報酬額」を低く提示したのです。
採算を取るために依頼主が条件を引き下げるのは珍しいことではありません。この動きに対し、受注を考える側が「提示条件を引き下げるな」と反応することは良策とは言えません。なぜなら、発注側に「受注する気がある」と足元を見られることになってしまうからです。
したがって、交渉をするにしても方法を入念に準備しておくことが必須と言わざるを得ないでしょう。
不採算部門の人間が「報酬削減は嫌だ」と主張しても世間が共感する可能性は低い
UberEats が部門として採算が取れているにも関わらず、収益確保を目的に配達員の報酬を出し渋れば、世間は労働者側の味方に付くことでしょう。しかし、実際は赤字の不採算部門なのです。
事業規模の拡大によって赤字幅が減少していれば、配達員の報酬体系は現状維持となったいたことでしょう。ですが、事業規模は拡大したものの、赤字幅も拡大してしまいました。
現状を黙認すれば、赤字幅はさらに大きくなることになります。手遅れになる前に是正策を講じる必要があるのですから、支出基準を引き下げるのは当然です。その方針に異を唱える労働者の集団に世間が共感する望みは低いと考えられます。
なぜなら、成果を残した労働者への報酬など “本来は別目的で使うはずだった資金” が「不採算部門の待遇維持のための費用」に転用されることになるからです。搾取された側からの反感を買うことは避けられないため、共感が広がることはあまり期待できないと言えるのです。
配達を請け負うなら、1度の配達で多くの配達先を持った方が合理的かつ効率的です。そうした形態にアップデートされるかどうかが UberEats の将来を大きく左右すると言えるのではないでしょうか。