質問主意書と答弁書の内容を無視して「反社会的勢力の定義はない」を騒ぐメディアや識者は “害悪な存在”

 反社会的勢力の定義を質問主意書で問われた政府が「あらかじめ限定的、かつ、統一的に定義することは困難」との答弁を決定したことに対し、朝日新聞などのマスコミが「反社会的勢力の定義はない」との切り取り報道を行っています。

 質問主意書の内容を確認していなれば、答弁書の内容も確認していません。一次情報を正確に伝えないマスコミを野放しにすることのメリットはないだけに厳しい批判を向ける必要があると言えるでしょう。

 

 菅義偉官房長官は11日の記者会見で、反社会的勢力について「犯罪が多様化しており、定義を固めることは逆に取り締まりを含め、かえって複雑になる」と述べ、改めて定義は困難との考えを示した。

 菅氏は会見で、記者から「定義が定まらないことで反社会的勢力に対する民間企業の取り組みに混乱が生じないか」と問われ、「逆に定義をすることが難しいのではないか。犯罪の質もどんどん変わっていますから」と反論。混乱が出る恐れについても、「それはないと思っている」と話した。

 

答弁書が出され発端となった初鹿明博議員(立憲民主党)の質問主意書

 まず、政府が答弁書を閣議決定する理由は議員が質問主意書を提出するからです。「反社会的勢力の定義」に対する答弁が行われることになった理由は立憲民主党の初鹿明博議員が以下の質問を行ったからです。

  1. 政府は上記指針において定義している「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」以外の意味で「反社会的勢力」という単語を用いたことはあるのでしょうか。
  2. 他の意味で用いたことがあるのであれば、閣僚や政府参考人等の国会答弁、各種施策の説明資料を含めて実例を全て明らかにし、どのような意味で用いたのかを説明してください。
  3. (略)しかし、異なる定義があるとすると対応方針を変更する必要が生じかねません。政府として、改めて「反社会的勢力」とは何かを定義付ける必要があると考えますが、いかがでしょうか。
  4. また、定義付ける場合、どのような定義となるのか具体的に示してください。

 初鹿議員は「平成19年に取りまとめられた指針にある『暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人』以外の意味で反社会的勢力を用いたことはあるか」と問い、その実例を示せと要求したのです。

 その上で、「 “異なる定義がある” なら、改めて『反社会的勢力』とは何かを定義付ける必要があると考えている」と主張し、定義付ける場合はどのような定義になるのかを具体的に示すよう要望しました。

 これらの前提を踏まえた上で答弁書を読む必要があるのです。それを無視した記事を平気で掲載するマスコミの姿勢は問題視されるべきと言わざるを得ないでしょう。

 

初鹿議員の質問主意書に対する政府の答弁内容

 初鹿議員の質問主意書に対し、政府は次のように答弁書(PDF)を決定しました。

 政府としては、「反社会的勢力」については、その形態が多様であり、また、その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであることから、あらかじめ限定的、かつ、統一的に定義することは困難であると考えている。

 ポイントなるのは「あらかじめ限定的、かつ、統一的に定義することは困難」の部分でしょう。なぜなら、『反社会的勢力』は一般概念であり、事前に限定的かつ統一的に定義することは不可能だからです。

 反社の指針は「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」がありますが、具体的ではありません。例えば、反ワクチン運動も「詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団または個人」に該当するため、『反社会的勢力』と見なすことも可能です。

 政府は『反社会的勢力排除の指針』を変えていませんし、民間企業が(今回の答弁で)混乱する余地はありません。騒いでいる方が問題と言えるでしょう。

 

“明確な定義” を定めてしまうと、反社は「定義外の存在」となるために知恵を絞って今よりも厄介な存在と化すだろう

 反社会的勢力の定義が定まっていない理由は「事前に定義が決まっている方が弊害が大きいから」です。

 もし、指針の「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」が定義なら、 “暴力行為に打って出る集団” であっても「経済的利益を求めていない」と主張すれば『反社認定』から逃れることが可能です。これは不都合が大きいと言わざるを得ないでしょう。

 したがって、個々の法律(= 組織犯罪処罰法や暴対法)に基づく形でケースによって定義されるべきですし、解釈の余地は残されているべきだと言えるでしょう。

 マスコミが「反社に対する民間企業の取り組みに混乱が生じないか」と紙面で懸念するなら、自社の法務部門に “確認” を取って記事にすれば良いことです。「政府の答弁書で混乱が生じる」と言えるなら、どの民間企業の法務部門も懸念を部門長の名前付きで表明してくれるはずです。

 それがないのですから、内容確認を怠る無責任な社会部や政治部の記者が切り取り報道をして世間を煽っているだけと言えるのではないでしょうか。