「止むを得ない」以外の理由で “稽古中の暴力” に一定の理解を示す処分を下した日本相撲協会の姿勢は大きな問題

 大相撲・宮城野部屋に所属する平幕の石浦と幕下力士が稽古中に殴り合いの喧嘩した問題で日本相撲協会は基準よりも軽い処分を下したと NHK が報じています。

 暴力根絶を掲げるのであれば、「喧嘩」であっても『基準に従った処分』を下さなければなりません。なぜなら、規定に触れない形で特定の力士を稽古中に “かわいがる” ことは可能だからです。

 したがって、石浦には1場所の出場停止処分が下されているべきだったと言えるでしょう。

 

 大相撲の平幕の石浦が同じ部屋の力士と稽古中に殴り合いのけんかをした問題で、日本相撲協会は「悪質性は高くない」などとして、石浦を基準よりも軽い1か月の「報酬減額」などの懲戒処分としました。

 (中略)

 日本相撲協会の懲戒処分の基準では、関取が暴力を振るった場合、1場所の出場停止となっていますが、今回は稽古が白熱したために起こったトラブルで継続性や反復性がないことなどから「悪質性は高くない」と判断したということです。

 

「稽古に見学客からいきなり殴られたため、思わず反撃してしまった」などの場合が『減給』の処分とすべき

 大相撲は競技者と観客の距離が非常に近く、「観客の問題行動による被害を受けやすい」というリスクがあります。酔っ払いや興奮した見学客から不意打ちの形で力士が殴打されることは現実に起こり得ることでしょう。

 その際、力士が反撃に転じたとしても不思議ではありません。

 正当防衛が成立する条件は揃っていますし、力士が先に手を出したのはではないのです。このような場合に『関取が暴力をした際の基準』である「1場所の出場停止」が科されるのは酷です。

 同情の余地はありますし、反撃時に殴りかかっていたなら『減給』、距離を確保するための押す程度なら『厳重注意』などに軽減されるべきです。「悪質性が高くない」との理由はこのようなケースで適用されるべきでしょう。

 したがって、宮城野部屋の石浦と幕下力士の間で起きた喧嘩騒動は “温情裁定” を下す動機には該当しないケースと言わざるを得ないのです。

 

暴力規定に触れることなく、特定の力士を稽古中にかわいがることは可能

 日本相撲協会が『暴力規定』を厳格に適用しなければならない理由は「規定を回避する形で特定の力士を意図的に扱くことが可能」だからです。

 例えば、「立ち合いの稽古」という名目で徹底的に『張り差し』を食らわせれば良いのです。やられた側の力士は顔面に張り手を一発もらうことになりますが、「立ち合いの稽古」ですから、組んだ時点で『勝負あり』とすることで一方的な “かわいがり” ができます。

 また、『かちあげ』など他にも意図的な方法はあります。「稽古の範疇を逸脱しているとは言い切れない」というグレーゾーンをなくすことは不可能ですから、その点を踏まえた対応をすることが協会側の責務と言えるでしょう。

 「稽古中に熱くなってしまった」と言えば、殴り合いであっても処分を回避できてしまうことは問題です。この問題は改善しなければならないでしょう。

 

ダメ押しを問題視するなら、「横綱・白鵬への指導」は避けては通れない

 平幕の石浦と幕下力士の喧嘩騒動は「勝負が着いた後のダメ押し」が発端となっています。つまり、取り組みの最中に火種が生じたのではなく、「取り組み後の振る舞い」に問題があったのです。

 したがって、「遺恨を生むような振る舞いや行為は稽古中であったとしても慎む必要がある」との価値観を力士に共有させる必要があると言えるでしょう。

 協会の広報部長を務める芝田山親方は「土俵の外でのだめ押しや暴力は論外」と述べていますが、それなら横綱・白鵬に対してであっても同様に指導しなければなりません。なぜなら、本場所でのダメ押しが最も目立っているのが白鵬だからです。

 「横綱が本場所の土俵上でしている所作や振る舞いは問題視されていない」との指摘に対し、協会はどう答えるのでしょうか。「横綱は別格」との基準を設けてしまうと、「強ければ何をしても良い」という “お墨付き” を与えてしまうことになります。

 相撲協会による石浦などへの処分は『暴力根絶』は口先だけとの印象を残す結果に現状ではなってしまっていると言わざるを得ないのではないでしょうか。