警察が保護した男性を管轄外に運んで置き去りにした愛知県(の職員)を批判するマスコミ体質は『大淀病院事件』の時から変わらず

 朝日新聞によりますと、愛知県の福祉相談センターの職員が保護した70代男性を管轄外の連れて行き置き去りにしていたことが発覚し、県が記者会見で謝罪したとのことです。

 記事のタイトルなどからは「県の対応」が問題視される内容ですが、問題の本質は「対応策に致命的な欠陥があること」です。大村知事は “得点稼ぎ” のために「厳正に処分する」と述べていますが、制度上の欠陥を直さない限り、現場への負担は重くなるだけでしょう。

 

 愛知県海部福祉相談センター(同県津島市)の職員が、保護した70代男性を管轄地域外の公園に連れて行って深夜に置き去りにしたことがわかり、県が4日、記者会見して謝罪した。職員は上司の指示で放置した。

 (中略)

 県によると、身元のわからない人を保護した場合、老人ホームや宿泊所などに受け入れを依頼しなければならない。2人は「時間外の身元不明者の対応経験がなく、受け入れ先も見つからず苦慮し上司の指示に従った」と弁明。

 

週末を控えた金曜日の夜に「身元不明・コミュニケーション能力ゼロの人物の受け入れ先を探せ」という無理難題

 まず、時系列などを整理することにしましょう。

  • 1月17日の夕方に愛知県警津島署が70代男性を保護
  • 海部福祉相談センターに引き継がれる
  • センターの50代男性と20代女性は手順に従い、老人ホームや宿泊所などの受け入れ先を探す
  • 受け入れ先が見つからず、上司に相談
  • 上司からの指示を受け、17日の深夜に70代男性を管轄外の公園に連れて行き、18日の未明に消防に通報
  • 70代男性は消防が保護し、中村署に引き継がれる
  • “津島署が保護した70代男性” を保護したことを不審に思った中村署の捜査で問題が発覚

 身元不明者の保護プロセスで問題なのは「福祉相談センターが “板挟み” になるリスクが高い」という点です。

 警察は事件性のない身元不明者は福祉相談センターに 100% の確率で引き継ぐことができます。しかし、福祉相談センターは “仲介者” であり、老人ホームや宿泊所に受け入れを依頼する立場です。

 つまり、老人ホームや宿泊所から「受け入れられ(る余裕は)ない」と断られると、身元不明者を『福祉相談センター』が抱えておかなければならないという致命的な問題を抱えているのです。これは『福祉相談センター』の機能を大きく低下させる要因であり、『根本的な問題解決策』が必要と言わざるを得ないでしょう。

 

福祉相談センターの職員に身元不明者を抱えさせると、本来の業務に支障が出る

 福祉相談センターの仕事は「相談者に解決案を提示すること」であり、「相談者の直接的な身の回りの世話をすること」ではありません。「直接的な身の回りの世話をする『老人ホーム』やそれに準ずる『宿泊所』を紹介する」に留まります。

 警察から引き継がれた70代男性は話も筆談もできない状況で、受け入れ先も見つからず、八方塞がりと言えるでしょう。なぜなら、この男性を週末を通して抱えることが確定的だからです。

 そうなると、福祉相談センターがこの男性を保護責任を担うことになり、センターの職員が身元不明者の身の回りの世話という “新たな別の仕事” を半強制的に従事させられることになります。

 相談センターの職員に「介護の実務能力」は要求されていませんし、もし要求しているなら相応の対価が支払われていなければなりません。そうした体系が採られていないことは濃厚なのですから、キレイゴトを述べて職員の対応を批判することは論外なのです。

 

「病院に連れて行かなかったのか」というマスコミは『大淀病院事件』を思い出せ

 愛知県の対応を批判するマスコミは「病院に連れて行かなかったのか」と問い質していますが、このような考えを持ったマスコミが『大淀病院事件』を作り出した元凶と言えるでしょう。

 病院が患者を常時受け入れ可能の状態である保証はありません。満床なら、救急の受け入れは拒否されます。また、担当医が夜間の緊急オペに対応している場合も同様です。

 『大淀病院事件』では「出産中の女性の救急搬送先が見つからず、転送先で出産後に死亡した事件」を毎日新聞が「妊婦のたらい回し」や「搬送拒否」と “受け入れ側の病院” を批判して大騒動を起こした『スクープ』です。

 今回の愛知県のケースでも、金曜の夜に一般外来は開いていないでしょう。そのため、「救急外来」に連れて行く必要がありますが、現状は中医協が「救急病院の診療報酬が加算するように」と答申したばかりで受け入れ枠は多くはありません。

 「『枠の上限』によって八方塞がりの状況に追い込まれることは分かり切っている福祉相談センターの職員」が無責任な立場にいるマスコミからの批判の矢面に立たされることは間違いですし、大村知事が今後するでしょう「厳罰処分のパフォーマンス」に拍手喝采を送るべきではありません。

 なぜなら、大村知事は『身元不明者の保護プロセス』を改善できる権力を持つ立場の政治家だからです。

 

 運用でカバーする体系を強いていれば、現場が疲弊するのは当然です。特に、受け入れ先を見つけることができなければ、自分たちの直接な負担になると他者に押し付ける誘惑に負けることも頻発することになるでしょう。

 幸いなことにマスコミなど報道機関は24時間営業(のはず)です。身元不明者の情報提供を呼びかけることにマスコミの発信力を使えるのですから、各マスコミに「身元不明者の引き取り」を要望する意味はあると言えるのではないでしょうか。