物言う株主のエリオットがソフトバンク・G株の 3% を取得し、「企業統治の改善」を要求し始める

 物言う株主として知られるアメリカのエリオット・マネジメントがソフトバンク・グループの発行済株式を約 3% 取得し、企業統治の改善などを要求していると日経新聞が報じています。

 エリオットは「収益性の向上が見込める企業に投資して株価上昇に繋がる経営政策を実行するように要求し、株価が上がった時点で売り抜けるビジネスモデル」です。要求内容を公言する発言力の大きい “アクティビスト” ですから、揺さぶりへの対処が必要となるでしょう。

 

 米有力アクティビスト(物言う株主)のエリオット・マネジメントがソフトバンクグループ(SBG)株を取得したことが6日、明らかになった。投資額は25億ドル(2725億円)以上で、保有比率は発行済み株式数の約3%に達しているとみられる。ハイテク企業への投資判断について懸念を示し、企業統治の改善を求めているもようだ。

 

「2.2兆円の自社株買い」を要求したエリオット

 エリオットは早くもソフトバンク・Gに対する要求をしていると日経新聞が伝えています。

 米国の有力アクティビスト(物言う株主)、エリオット・マネジメントがソフトバンクグループ(SBG)に対して最大200億ドル(約2兆2千億円)の自社株買いや社外取締役の増員などを要求していたことが7日わかった。

 「企業統治の改善」を要求するエリオットはソフトバンクに「自社株買い」を要求しています。発行済株式の総数が減少すれば、既存株式の価値は上昇します。経営戦略に関係なく株価を上げることができるのですから、一般的な要求と言えるでしょう。

 「自社株買い」をする一般的なケースは「外部に適切な投資先が見当たらない場合」です。ソフトバンクは「ビジョン・ファンドを通して行った投資は適切」と言いたいのでしょうが、エリオットはそうは見ていないはずです。

 だから、「自社株買い」や「(ビジョン・ファンドの投資先選定に関わるための)社外取締役の増員」を要求しているのでしょう。『株主の利益』を求めた行動を起こしているため、エリオットの動きに同調する株主も出てくると言えるでしょう。

 

エリオットの “軍資金” はおそらく「現代自動車に投資してきた資金」

 エリオット・マネジメントがソフトバンクに口出しを始めた理由の1つは「韓国の現代自動車に投資していた資金の新たな運用先が必要になったから」でしょう。

 なぜなら、エリオットは今年の1月末に現代自動車の保有株を全て売却したからです。

 米投資会社エリオット・マネジメントが現代自動車グループの保有株をすべて売却したことが、23日分かった。複数の韓国メディアが報じた。エリオットは2018年初めに現代自株の3%のほか、グループ会社の起亜自動車と現代モービスの株を数%ずつ取得し、増配や自社株買いの株主還元策のほか積極的な投資などを要求していた。

 エリオットは2018年の初頭から現代自動車の株式を取得し、グループ会社の株も手にしていました。全体の投資額は2000億円を超えているはずですから、今回のソフトバンクに費やされた額に近いと言えるでしょう。

 「韓国の自動車産業は生産性が極めて悪く、この部分を改善すれば現代自動車の株価は高くなる」との見立てがあったのでしょう。

 しかし、それが不可能でした。なぜなら、韓国では労組が強すぎる上にヒュンダイの労組はムン・ジェイン政権を誕生させた『民主労総』の傘下にあるため、経営者以上の権力者という立場が保証されていたからです。

 そのため、流石のエリオットでも損失を計上。日経新聞では韓国・証券業界の話として「500億円弱の損失を出したと思われる」との見解を紹介しています。おそらく、エリオットはこの損失をソフトバンク・Gへの投資で取り戻そうとするでしょう。

 日本は韓国ように “労働貴族” が絶対的な権力を持っている訳ではありませんので、エリオットが簡単に引き下がる要因がないことも事実です。そのため、マスコミが注目する『有名アクティビスト』への対応をどうするかがポイントになると思われます。

 

孫正義会長の決定方針に正面から「NO」と言える発言力と知名度を持った大口株主が現れた状況

 現状でエリオット・マネジメントがソフトバンク・Gの経営方針に口出しをしても、その影響は大きくはないでしょう。なぜなら、会長の孫正義氏が 20% の株式を保持しているため、3% のエリオットの発言力は限定的だからです。

 ただ、孫氏の経営方針に堂々と異を唱える大口株主が現れたことは少なからず影響が出るでしょう。

 エリオットの目的は「取得時よりも株価を高くして売却し、その差額を収益とすること」です。そのため、『短期または中期で比較的即効性のある経営方針の実行を』求める要求が出されると考えられます。

 「利益確定」を考える株主が “エリオットの要求” に魅力を感じることはありますし、資金を貸し付けている銀行も「渡りに船」と判断する可能性もあります。

 株主総会での委任状争奪戦(プロキシ・ファイト)が発生した際の “旗振り役” が現れた状況ですから、ソフトバンクは「放置」の選択肢は採るべきではありません。

 要求を聞きつつも、「孫会長は自らの資産額を減らすような判断はしない」との理由で要求を拒否したりと、適度な距離感を保つことが現状ではベストの方針になると言えるのではないでしょうか。