「ブリカス」と揶揄されるイギリス政府、 “英国船籍のクルーズ船から自国民だけを帰国させるための航空機の準備” を検疫期間終了後に表明

 イギリス政府がクルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス』に乗船中のイギリス国民を帰国させるための航空機を手配する意向を示したと BBC が報じています。

 しかし、忘れてはならないのは「該当のクルーズ船はイギリス船籍」ということです。

 検疫などはイギリス当局が責任を持ってやらなければならないことであり、隔離期間が終了した後に感染が確認されなかったイギリス人だけを帰国させるという方法は批判されるべきものと言わざるを得ないでしょう。

 

 A Number 10 spokesman said: "We sympathise with all those caught up in this extremely difficult situation.

 "The Foreign Office is in contact with all British people on the Diamond Princess, including to establish interest in a possible repatriation flight."

 He said the government is "urgently considering all options to guarantee the health and safety of those on board".


 英首相官邸の報道官は、「我々は、この非常に厳しい状況の中で捕らわれている、すべての人々を気の毒に思っている。(中略)外務省は、今後飛ばすかもしれない帰還便に乗る意向があるかをはっきりさせるため、ダイヤモンド・プリンセス船内にいるすべてのイギリス人と連絡を取っている」と述べた。

 報道官はまた、英政府は「船内にいる人々の健康と安全を保証するためのあらゆる選択肢について、緊急に検討」していると明かした。

 

イギリス船籍のクルーズ船で新型コロナウイルス感染症が蔓延したにもかかわらず、対応を日本に押し付けたイギリス政府

 クルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス』の対応で日本政府(と厚労省)が “貧乏くじ” を引いたことは確実でしょう。なぜなら、当該クルーズ船はイギリス船籍であり、日本側が対応しなければならない責務はなかったからです。

 しかし、日本は「人道的配慮」との理由で入港を許可したところ、「対応の全責任を日本政府が背負ったとの認識」が国内外のマスコミに形成され、それを根拠に対応を批判されることになってしまったのです。

 『ダイヤモンド・プリンセス』はイギリス船籍なのですから、船内に適用されるのは日本の領海内であってもイギリス法です。したがって、本来の検疫責任者はイギリスの当局です。

 船内に新型コロナウイルス感染症患者がいたことが横浜港に入港する前の段階で濃厚だったのですから、イギリス当局に「検疫責任を負わないなら入港は認めない」と通告することを怠ったのは日本側の大きな落ち度と言わざるを得ないでしょう。

 

「患者の入院費」も「船内の検疫対処費」も “日本の税金” で賄われている

 イギリス政府は『ダイヤモンド・プリンセス』の件で上手く立ち回ることができたと言えるでしょう。一方で日本は「(イギリス政府に)上手く利用されてしまう結果」となってしまいました。

  • イギリスの法律が適用される『英国船籍』だが、寄港地である日本が “汚れ仕事” を全て引き取ってくれた
    • クルーズ船は “病院のような区別” を前提にした客室・動線になっていないため、完全な封じ込めは不可能
      → 病院よりも感染者を出しやすい
    • 検疫や患者の輸送にかかる費用は日本持ち
    • 感染者の治療費も日本が負担
    • マスコミは『船籍国』の概念を知らないので、対応に当たっている日本の当局を批判する

 イギリスは “旗国” としての責任があるのですが、現時点で全ての対応を寄港地である日本に押し付ける形で沈黙を続けています。

 日本の医療・社会保障制度にタダ乗りし、経過観察期間が完了した頃合いを見計らってイギリス人だけの帰国させるための航空機を手配することに動き出したのです。こうした動きは批判が浴びせられるべきですし、日本の対応だけが批判の対象となるのは誤りと言わざるを得ないでしょう。

 

「日本の法律の効力が及ばない外国船籍のクルーズ船での検疫には限界がある」との認識を持たなければならない

 対応に当たっている厚労省は法的根拠がなければ、動くことはできません。“外野” が「隔離を徹底しろ」と主張したところで、「新型コロナウイルス感染症の患者を強制隔離する法的根拠」がなければ行動を起こせないのです。

 現状の日本には該当の法的根拠がありません。だから、『要請』が精一杯なのです。

 強制的に隔離するのであれば、対象となる患者の『人権』を(著しく)制限することになります。特に『人権』を求めて戦って来た左派系は「隔離を徹底すべき」と主張する前に、現場で対応に当たる厚労省が速やかに動ける法的根拠を作るサポートに回るべきと言えるでしょう。

 しかし、これは日本国内(の主に陸上で)の話です。外国船籍のクルーズ船では通用しません。なぜなら、外国船籍は日本の領海内にいたとしても、船内に適用されるは「旗国の法律」だからです。

 イメージとしては「海に浮かぶ外国領事館」と言えるでしょう。つまり、乗客の隔離を要請することはできても、隔離を強制することは現実的ではありません。

 『ダイヤモンド・プリンセス』に対してそれができるのはイギリスだけですが、肝心のイギリス当局は沈黙を貫いています。人道的観点を理由に受け入れてしまうと今回のような “貧乏くじ” を引く結果となり、自国の医療資源を食い尽くされる結果になった現実は『反面教師』として教訓にしなければならないでしょう。

 

 少なくとも、イギリス政府は日本政府以上にクルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス』で発生している『新型コロナウイルス感染症』への対応責任を持たなければならないのです。

 メディアがこの部分に全く触れていないことは問題ですし、日本の当局も不満を表明し、イギリス側に対応のリソースを提供させるべきと言えるのではないでしょうか。