厚労省がクルーズ船内での対応者を「ウイルス検査の対象外」としたのは理由に関係なく大きな問題であり、プロセスの改善は必要

 NHK によりますと、イギリス船籍のクルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス』の船内で業務に当たっていた厚労省職員や DMAT などのウイルス検査(= PCR 検査)を実施すると発表したとのことです。

 これまでの「症状がなければ検査しない」という方針では「2次感染が起きた際に致命的な影響が生じる」というリスクがあります。また、対応時に “現状の不備” が発覚するケースもあり得るのですから、担当者への検査は必要と言えるでしょう。

 

 クルーズ船、「ダイヤモンド・プリンセス」では船内で業務にあたった厚生労働省の職員のほとんどがウイルス検査を受けずに職場に復帰していたことがわかり、厚生労働省は、22日事務作業に当たった職員など41人についてウイルス検査を行うと発表しました。

 一方で、医師や看護師などの資格を持つ職員や、検疫業務にあたった職員、それに、DMAT=災害派遣医療チームなどの医療関係者については、症状がなければ検査しない方針を示しました。

 対象から外した理由について厚生労働省は「医療関係者は感染を予防する技術を習熟し、十分に対策しているから」などと説明しています。

 

『十分な対策』は「完璧な対応」ではないし、『十分な対策』を施した環境下でも感染が起きる可能性がある

 ます、『十分な対策』は「現実的に採れる最善の対策」と言えるでしょう。しかし、「完璧な対策」ではありません。

 もちろん、『十分な対策』が施されていれば、感染の可能性を限りなくゼロに近づけることができます。ただ、感染をゼロにすることは不可能でしょう。

 現場の対応者が(過労などで)ケアレスミスをすれば、対策内容に関係なく感染は発生します。また、“想定外の経路” による感染も起こり得る可能性はあります。

 そのため、対応者の感染確認をすることが重要になります。なぜなら、感染が「対応者」と「制度」のどちらに大きな原因があったのかの切り分けができるからです。

 『十分な対策』の精度をより高めるためにも、「検査をやる価値は大きい」と言えるでしょう。

 

厚労省の担当者などは “健康” でも、職場や周囲にいる人は2次感染による影響が大きい

 厚労省が「症状がなければ『PCR 検査』をしない」とした判断は理解できます。新型コロナウイルス感染症で引き起こされるのは「肺炎」ですし、“健康な人” がほとんどの担当者が重症化するケースは稀と言えるからです。

 しかし、DMAT の一員としてクルーズ船に派遣された医療関係者の職場は病院であり、病院には肺炎を引き起こすと重症化しやすい基礎疾患を抱える人々が多く訪れます。

 そのため、「症状がない」との理由で検査を見送るリスクは大きいと言わざるを得ません。基礎疾患を抱えた人への2次感染が確認された場合は「軽症での経過観察」ではなく、重症化して医療リソースを大きく消耗する恐れが強いからです。

 「十分な対応をしているから」との理由で『PCR 検査』を見送ることは(厚労省の)慢心です。「(厚労省や検査機関の)業務が回らないことを回避するため」なら、これは予算を決める政治の責任が重くなります。

 職員たちが派遣されたクルーズ船は「隔離病棟と同じ『空間的な隔離』を実施することが不可能な構造」ですし、指揮系統や人員も入り乱れています。いずれの理由にせよ、感染の可能性がある人のチェックを見合わせるだけの根拠はないのです。

 対応を改めるだけでなく、「現場は最善を尽くした」と世間に説明するための根拠を作るためにも検査を必須とするプロセスにする必要があるでしょう。

 

自衛隊は対応者への『PCR 検査』を実施している

 厚労省が参考にする必要があるのは「自衛隊の対応」です。

 河野大臣がツイッターで紹介しているように、自衛隊は中国・武漢からの帰国者を受け入れた上で生活支援と医療支援を行い、任務終了後に『PCR 検査』を受けています。

 クルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス』に派遣された厚労省の職員や DMAT も同様の措置が採られているべきなのは明らかです。省庁が持つ権限は同じ水準にある訳ですから、職員を守るための措置も同じであるべきです。

 「年金や医療費が大きいだけで感染症の対策に回す金銭的予算も人的予算もないことが実情」なら、それを表明しない限り何も変わりません。「現状予算以上の成果を要求するのは虫が良すぎる」との不満は明言しておくべきと言えるのではないでしょうか。