韓国(全土)の医療崩壊は起きていないが、新型コロナの過剰検査で韓国(テグ・大邱)の医療崩壊は発生した

 新型コロナウイルス(covid-19)への対応で「積極的な『PCR 検査』の実施」をした韓国で医療崩壊が発生しました。ただ、それはテグ(大邱)での話あり、韓国全土で医療崩壊が起きたのではありません。

 しかし、大阪市(人口274万人)や名古屋市(人口232万人)と同規模を人口を持つ都市で医療崩壊が起きたのです。この点は「問題ない」とは言えないでしょう。

 

「人口100万人あたりの死者数」で見ると、韓国・テグ(大邱)の深刻度が浮き彫りになる

 国ごとに人口が異なるため、「人口100万人あたりの新型コロナウイルスによる死者数」で比較すると実態を感じやすいでしょう。グラフにしたものが下図です。

画像:人口100万人あたりの新型コロナウイルスによる死者数
  • 人口100万人あたりの新型コロナによる死者数
    • 韓国(全土): 1.31人
    • テグ(大邱): 19.7人
    • 韓国(テグを除く): 0.39人
    • 韓国(テグと慶北を除く): 0.06人
    • 日本: 0.12人
    • イタリア: 16.8人

 韓国の新型コロナによる死者数はテグの死者数によって全体的に大きく引き上げられています。テグ広域市と慶尚北道での死者数を除外した韓国の人口100万人あたりの新型コロナによる死者数は 0.06 人です。

 この数値は3月9日時点の日本と同じですから、ムン・ジェイン大統領が強気な姿勢を示す理由も理解できなくはないと言えるでしょう。

 ただ、中核都市の医療が崩壊していることは否定しようのない事実なのです。したがって、『PCR 検査』の積極的な実施は医療リソースを食い潰す “愚行” と言わざるを得ないでしょう。

 

イタリアは全国規模で『韓国・テグ化』が急激に進行している

 韓国・テグ広域市の人口は約244万人です。日本では大阪市が約274万人、名古屋市が約232万人です。このどちらかの市で「新型コロナによる死者が約50人」という状況ですから、テグの事態は深刻と言わざるを得ません。

 ちなみにイタリアは3月6日の時点で「人口100万人あたりの新型コロナによる死者数」は 3.25 人でした。それが1週間ほどでテグの水準にまで達してしまったのですから、医療崩壊が起きているのは確実です。

 新型コロナウイルス感染者への対応に医療リソース(人員・病床・機材など)が取られたことで他の疾患への治療に支障が生じるのが医療崩壊です。

 「軽症の入院患者は帰宅せよ」と強制できる法的根拠や実行力があれば、医療崩壊を立て直す見込みは生まれます。しかし、現実社会では不可能でしょう。

 なぜなら、我が身が可愛いのは当たり前ですから、入院患者は徹底抗戦してゴネるのは目に見えています。また、そうした行為に行政が踏み切ろうものなら、マスコミが「非人道的」と大バッシングを浴びせることは目に見えているからです。

 

日本では愛知県がテグ(大邱)や慶尚北道の状況になる可能性がある

 日本で医療崩壊の起きる可能性が現時点で最も大きいのは愛知県でしょう。

  • 新型コロナは「指定感染症」のため、感染者は『指定医療機関』に入院する
  • 愛知県は計161床
    • 指定医療機関: 12病院72病床
    • 協力医療機関: 33機関89病床
  • 3月10日時点で計96床を利用中
  • 大村知事は「『PCR 検査』の態勢を拡充する」と10日に表明

 現状では『PCR 検査』を積極的に実施するほど(「指定感染症」であるために)新型コロナウイルスの軽症者によって病床が埋まってしまうのです。

 その場合への対応策は厚生労働省が3月1日付けの通知(PDF)で示しています。「地域での感染拡大で入院を要する患者が増大し、重症者や重症化の恐れが高い者に対する入院医療提供に支障を来すと判断される場合」との条件で以下の体制整備が図られます。

  1. 一般医療機関でも一般病棟を含め、一定の感染予防策を講じて必要な病床を確保
  2. 高齢者や基礎疾患保有者などを除き、症状がない又は医学的に症状が軽い者は PCR 等検査陽性であっても自宅での安静・療養を原則とする

 これは「都道府県単位」で地域の実情に応じて対応を採ることができますから、愛知県は現時点で『協議会』を立ち上げておく必要があります。「軽症者の自宅待機」は都道府県知事が “判断” するものとなっていますが、「厚労省とも相談するものとする」と記述されているからです。

 

 ロジカル(= 論理的)な対応をする必要がある感染症対策で大村知事が “パニックの引き金” を弾こうとしていることは大きな懸念点と言わざるを得ないでしょう。

 名古屋の医療崩壊が周辺自治体に『ドミノ倒し』で波及する恐れがあるのです。テグ(大邱)や慶尚北道のような状況になって喜ぶのは「医療崩壊」を報じることができるマスコミだけです。

 「新型コロナの感染者数を把握すること」は「新型コロナの重症者や死者を減らすこと」よりも優先順位は低いのです。その判断を誤るとテグ(大邱)やイタリアのような “地獄” が出現することになると言えるのではないでしょうか。