「イタリア初の新型コロナの死者は3月2日」と事実誤認した東大・池内恵氏が “欧州旅行での感染者” を擁護するのは逆効果

 3月にヨーロッパ旅行をしていた人が新型コロナウイルスに罹患していたことへの批判が強まっていることに対し、東京大学の池内恵氏が「3月第1週の欧州旅行を止めるとの決断ができる人がいるなら諜報機関が雇うべき」と皮肉をツイートしています。

 ただ、イタリアで最初の死者が確認された日付を「3月2日」とするなど事実誤認を前提とした擁護になっています。逆効果にしかならないツイートですし、「家に帰るまでが遠足」という基本を忘れた旅行者が批判されるのは当たり前と言わざるを得ないでしょう。

 

池内恵氏がツイートした内容

 池内恵氏が行ったツイートは以下のものです。

画像:池内恵氏のツイート

 未来のことを “正確に” 予測することは不可能です。しかし、どういう状況になると危険であるかを見積もることは可能です。

 また、池内氏のツイートには事実誤認がある上、大学教員というポジションにも留意する必要があるでしょう。

 

イタリア国内で新型コロナウイルスの死者が最初に確認されたのは3月2日ではない

 まず、イタリア国内で最初に新型コロナウイルスによる死亡者が確認されたのは2月21日(金)です。そのため、2月23日(日)に予定されていたサッカー・セリエAの3試合が政府命令で「中止」に追い込まれています。

表:イタリア国内での新型コロナウイルスの感染者数
日時 感染者 重症者 死者
2月23日(日) 132 26 2
24日(月) 229 27 6
25日(火) 322 35 10
26日(水) 400 36 12
27日(木) 650 56 17
28日(金) 888 64 21
29日(土) 1049 105 29

 イタリアが対応に大失敗した根拠は保健衛生省が発表している数値から明らかです。2月中に見つけることは可能だったと言えるでしょう。

 ただ、個人にはハードルが高かったことは事実です。なぜなら、安倍政権と対決姿勢を採る人々(= ピオ・デミリア氏上昌広氏)が「やり方を間違えた日本だけで感染拡大が起きている」とのミスリードを引き起こす言論を日本の国内メディアでしていたからです。

 そのため、欧州サッカーの中でもイタリア・セリエAを贔屓にしている人など “特定の方向” にアンテナを張っていた人でなければ、最初の兆候に気づくことは難しかったと言わざるを得ないでしょう。

 

新型コロナが厄介なのは『感染爆発』で感染者が「1週間で10倍」になり、状況が一変すること

 新型コロナウイルスが厄介なのは「患者が指数関数的に増加する『感染爆発』が起きること」です。イタリアでは2月の最終週に患者が2〜3日で倍増する『感染爆発』が起きていました。

 イタリア(の当局)が最初の感染に気づいた21日の2日後には『感染爆発』が起きていたのですから、「警戒せざるを得ない状況」との認識を全く持っていなかったのであれば、『バカ』の烙印を押されても止むを得ないことでしょう。

 

「3月第1週の時点でのレッドゾーン」と「3月第2週の時点でのレッドゾーン」は違う

 3月前半に欧州旅行に出かけた人を擁護する人々は「出発時点」を全面に押し出しますが、これは無理があります。なぜなら、「家に帰るまでが遠足だろ?」と反論されると再反論に窮することになるからです。

 「出発時点は晴れていたから登山に出かけた」との主張で「下山時の気象は考慮していたのか」との追求を交わし切ることはできません。それと同じです。

 例えば、2月第4週の感染者を基準に「3月第1週時点でのレッドゾーン」を考えると、以下の国や地域になると言えるでしょう。

表: ヨーロッパでのレッドゾーン予報(2020年3月第1週)
区別 国・地域
行くな すでに『感染爆発』が起きている地域
イタリア北部(ミラノやベネチアなど)
要注意 『感染爆発』の危険度が高い地域
  • イタリア北部との人の往来が多い国や地域
    • イタリア中部(フィレンツェやローマ)
    • フランスやスイスなど
    • イタリア人が好む(欧州の)観光地
たぶん大丈夫 感染拡大の兆候がまだ見られない地域
  • 『要注意地域』との人の往来が多い国や地域
    • イタリア南部(ナポリなど)
    • スペイン、ベルギー、オランダなど

 3月第1週にオランダを訪問した日本サッカー協会の田嶋会長は「帰国後の17日」に感染が確認されました。2月中に発表されたデータから「3月上旬のオランダ訪問は新型コロナウイルス感染の危険がある」と判断することは不可能です。

 そのため、田嶋会長のようなケースを批判することは間違いです。

 しかし、3月第2週にヨーロッパ旅行をするスケジュールの場合は話が違って来ます。なぜなら、旅行中に訪問先の情勢が(1週間も経たないうちに)一変する可能性があったからです。

 (実際にフランスは3月4日頃から『爆発路線』に入り、スペインもその数日後には『爆発路線』に突入し、マドリードでのフェミニストらのデモ活動がトドメを刺した)

 その場合への備えがなかった結果に対する責任が問われることは止むを得ないですし、感染が疑われる自覚症状が出ている中で “普段どおり” の生活を続けた今春から新社会人になる大学生に厳しい批判が向くのは避けられないでしょう。

 

“有益な情報” に無料で簡単にアクセスできると思っていることが間違い

 池内氏は「欧州が危険になるとの情報はなかった」との理由による擁護も行っていますが、「 “有益な情報” が無料公開され誰でも簡単にアクセスできるものではない」という現実を冷静に再認識しなければなりません。

 要するに、有益な情報を知っている人はいても、それが世間に公表されている保証はないのです。

 ISが台頭した際に池内氏のところに多数の取材依頼があったはずですが、“有益な情報” を持つ池内氏はそれを惜しみなく公表したでしょうか。研究費の支出に理解を示してくれる人々を足蹴にすることを嫌い、有償という形で発信していたはずです。

 つまり、情報は有益であるほど価値があるのです。それを無償で公開する私企業はないと言えるでしょう。また、「決定的な証拠がない限り動きが遅い」ことが日本行政の特徴です。

 中国・武漢が封鎖されても、入国拒否に重い腰を上げなかった外務省の動きを見れば、自発的に防御策を採ることが重要なのは明らかです。

 

 「危険度が増しつつある地域に向かう旅行者」と「居住している地域が不可抗力に近い形で危険度が増した駐在者」とは前提が違うのです。感染は止むを得ないとの擁護が限度であり、その後の行動次第では厳しい批判を受けるのは自業自得として受け入れるべきなのではないでしょうか。