原油価格の下落による財政危機に対処する必要が生じたサウジアラビアが消費税を3倍の15%に引き上げと給付金削減の荒療治へ

 アメリカの CNN によりますと、原油価格の下落によって生じた財政危機に対応するためにサウジアラビアが「消費税率を現行の 5% から 15% に引き上げる」と共に「国民への給付金を削減する」とのことです。

 石油資源への過度な依存からの脱却に向けた動きが進んでいましたが、思わぬ災難に見舞われることになったと言えるでしょう。財政危機は日本でも他人事ではないため、同様の動きが出る可能性は十分にあると考えられます。

 

 サウジアラビアが原油価格の下落と新型コロナウイルスの感染拡大に伴う財政危機に対応するため、消費税にあたる付加価値税を現行の5%から15%へと3倍に引き上げることがわかった。

 世界最大の石油輸出国のひとつでもあるサウジは国民への給付金の削減なども実施する。付加価値税の引き上げは7月から。

 (中略)

 サウジは歳入引き上げの取り組みを進める前は、巨額の社会的支出や軍事費などに対応した予算をまかなうために石油価格が2倍以上になることを必要としていた。サウジのムハンマド皇太子は「ビジョン2030」と名付けた経済の多様化を推進してきたが、歳入不足によってそうした取り組みの再考を余儀なくされる可能性も出てくるかもしれない。

 

石油資源という “安定収入” があったから、他の産業を育てる必要性が少なかった

 サウジアラビアには石油資源が存在しているため、「民間からの税収」に気を配る必要が少ない国でした。なぜなら、石油製品を欲する他国が毎年購入し続ける必要があるため、油田を国が抑えていれば税収を確保できるからです。

 王政という形で王族が権力を握りますが、一方で国民は「税金が極めて低い」という恩恵を享受できます。また、給付金の形で国民を “懐柔” する余裕もある訳ですから、他の産油国よりも安定していると言えるでしょう。

 しかし、一方で将来的な懸念事項もありました。

 1つは人口増による自国内での電力需要が増えたこと。人口が増えると『水』が必要になりますが、降水量の少ないサウジアラビアは淡水化工場で生成しています。その動力に石油を使うことが非効率的で原発などへの置換が検討項目でした。

 もう1つは環境への配慮から「石油製品への需要が “長期的に” 減少する」と見られていたことです。だから、石油だけに依存した経済からの脱却を視野に入れた長期戦略でサウジアラビアは動き始めていたのです。

 

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、石油資源への需要が消失

 経済活動にはエネルギー資源が必要不可欠であり、その中心に位置する石油資源への需要がなくなることはないでしょう。「長期的には現在よりも減少する」と見込まれている状況だったからです。

 ところが、世界中で新型コロナウイルスが感染拡大したことにより、経済活動がストップ。それにより、石油資源の需要が消失するという予想だにしていなかったことが発生してしまいました。

 需要はいずれ “元の水準近く” にまで戻ることでしょう。ただ、「それがいつになるのか」は誰にも分かりません。

 現状のままではサウジアラビア政府の財政は危機的状況になることは不可避です。歳入の中心である「石油資源の販売」は激減する一方、「国民への給付金」などの歳出は維持されたままだからです。

 財政危機を回避するのは「消費税率を引き上げる」ことで “新たな歳入” を確保するとともに、「給付金を削減する」ことで歳出をカットすることが必要になります。7月から導入予定とのことですが、効果が少ないのであれば強化される可能性もあると言えるでしょう。

 

財政危機は日本にとっても他人事ではない

 サウジアラビアは “荒療治” に打って出ましたが、これは日本なども他人事では済まないでしょう。ちなみに、財務省が発表している一般会計税収は以下のとおりです。

  • 令和元年(平成21年)度: 62兆5000億円
    • 所得税: 19兆9000億円
    • 消費税: 19兆4000億円
    • 法人税: 12兆9000億円

 昨年度は過去最高の税収額を記録しましたが、歳出は「100兆円近く」が続いていますから、財政に対する危機感を持たなければならない状況にありました。

 しかも、そこに新型コロナウイルスの感染拡大を抑止するための経済活動などの自粛要請が加わったのです。消費は落ち込みますし、企業の収益も減少するでしょう。また、人員削減も進行していることから所得(の総額)が下がることも不可避です。

 政府の歳入がかなりの確率で大幅減になるのであれば、歳出についても見直すことが常套手段です。それができないと財政赤字が積み重なる一方ですし、将来世代にツケを残すことと同じです。

 

 日本の場合は「高齢者の絶対数が増えすぎたこと」が財政危機を引き起こしている最大の原因です。

 ここに手を付けない限りは『衰退の道』を進むことを強いられるでしょう。長期的な視野を持った政治家の出現を有権者がどれだけ求めているかが鍵になると言えるのではないでしょうか。