BBCの「ドイツでは難民申請の4割が認められる」という主張のトリック

 北朝鮮を批判したため、当局に拘束され、反省文を書きて許してもらったBBCの記者が日本の難民認定を批判するレポートを行っています。

 その中で「ドイツでは4割の難民申請が認められる」と主張していますが、このロジックにはトリックが含まれていると言えるでしょう。

 

 では、2015年ドイツにおける “難民” 関係の数値を確認することにしましょう。まず最初に確認すべきは難民としてドイツに入国した人数です。

 2016年2月26日付けの AFP 通信の記事には次のような記載があります。

 ドイツ政府は、左派党(Left Party)議員の質問に対する文書での返答で、2015年に登録された難民申請者約110万人のうち「約13%が指示した一時収容施設に姿を現さなかった」と述べた。

 

  • 2015年に登録された難民申請者数は約110万人
  • 申請者の13万人(11.8%)が所在不明

 日本でいう国会での質問書に当たるやりとりで政府による返答で記載された内容ですから、この数値(難民申請者数=約110万人)がドイツ政府の公式見解と言えるでしょう。

 BBCウィングフィールド=ヘイズ特派員の報告が正しいのであれば、ドイツではその4割に該当する約44万人が難民認定を受けていなければならないことになります。それでは、実際の認定者数の統計資料を確認してみることにしましょう。

 

 ドイツ連邦移民・難民庁(Bundesamt für Migration und Flüchtlinge, BAMF)が統計記録を発表していますので、そこから数値を探し出せば済むことです。

 2015年の内容を確認するには2015年12月版(PDF)として掲載された数値を抜き出すことで全体像を把握できるでしょう。

表1:ドイツ連邦移民・難民庁による裁定結果(2015年)
国名 申請数 裁定数 庇護数
シリア 162,510 105,620 102,586
(96.0%)
アルバニア 54,762 35,721 76
(0.2%)
コソボ 37,095 29,801 132
(0.4%)
アフガニスタン 31,902 5,966 2,890
(47.6%)
イラク 31,379 16,796 15,037
(88.6%)
セルビア 26,945 22,341 26
(0.1%)
合計値 476,649 282,726 142,944
(49.8%)

 まず指摘する必要のある点はドイツ連邦移民・難民庁が認識している申請数が50万件弱であるということです。

 ドイツ政府は「2015年の難民申請者数は110万人」という返答を出しているのですから、早くも矛盾する結果となっています。

 

 BBCのウィングフィールド=ヘイズ特派員が主張する「ドイツでは難民申請の4割が認められる」という内容がどこから来ているかと言いますと、裁定が行われた中でドイツに留まることが許可されるなど庇護を受けた割合が 40% という事実が出所です。

  • ドイツ政府が認識する難民申請者数は約110万人
  • 申請者の13万人(11.8%)が所在不明
  • ドイツ連邦移民・難民庁が認識する難民申請者数は約48万人
  • 裁定が下された難民申請者数は約28万人
  • ドイツに庇護された難民申請者数は約14万人

 2015年にドイツで法的根拠に基づく庇護下に置かれた難民は約14万人ですから、ドイツ政府が認識する難民申請数から見れば、12% ほどなのです。

 そして、その数値とほぼ同数の難民申請者の所在が不明になっているという事実こそ、BBCなどのメディアは問題視すべきことなのではないでしょうか。

 

 また、難民申請者に対する裁定の細かい内訳を見ると、より興味深いことが浮き彫りとなります。ドイツの難民認定には「基本法16条による認定」と「難民法による認定」の2種類が存在し、難民法による人道的観点からの庇護の割合が高いことが数値として現れているのです。

画像:難民申請者への裁定の内訳(ドイツ、2015年)

 このデータはドイツ連邦移民・難民庁が発表した初回申請における裁定の内訳から申請の多かった上位6カ国と全体の合計値を日本語化したものです。全体の裁定数28万件中、25万件が初回申請だったということになります。

 “庇護された難民” としてカウントされたのは、「難民認定を受けた+庇護措置を受けた+本国送還を禁止する措置を受けた」のいずれかに該当した申請者のことを指します。ここで注目すべきはどの項目で救済されたかということになります。

 

 ドイツの基本法16条を根拠に難民として認定されたのはわずか 0.8%。大多数が難民法を根拠に認定されており、言わば、“難民認定(仮)” の状態に過ぎないのです。

 また、コソボ紛争などヨーロッパで発生した紛争による避難民は一切受け入れる姿勢を見せていないこともデータは如実に現しています。ヨーロッパ圏からの難民申請者が認定されるのは 1% にも満たず、日本と認定率と変わらない水準なのです。

 そもそも、シリア紛争をそそのかしたのはヨーロッパ諸国なのですから、その責任をEUが負うことは当然であり、紛争介入すら行っていない日本がヨーロッパの後始末を手助けする必要性は皆無です。むしろ、トルコやヨルダンなどにいる難民に多額の資金援助を行ったことに対して、ヨーロッパ諸国は感謝しなければなりません。

 「難民受け入れによってGDPが増加する」という意見を述べる人もいますが、これは難民を受け入れた国の政府が難民用の住宅を建設するなどの公的事業を行うことによるためのものです。

 これは日本政府が「地震による家屋倒壊を防ぐため、自宅の耐震補強を行う日本国民に対し、公的支援を行います」と宣言することと同じことなのです。ただ、対象がその国の国民か、国外からやってきた(自称を含む)難民かの違いに過ぎません。

 確かに、建設業を中心に資金が流れることになりますので、GDPの数値は上向くことが期待できるでしょう。しかし、実態はバラマキと同じなのですから、経済政策として政府が予算を投じる価値がある内容であると主張する人は少ないと言えるでしょう。

 

 最後にウィングフィールド=ヘイズ特派員へアドバイスを送ることにしましょう。どれだけ日本の難民認定数を批判したところで、何の意味もありません。“実状を調査する能力もない外国人記者” と言われるだけが関の山です。

 難民認定数が多かった国ほど、受け入れた難民によって経済が押し上げられた

 このような主張がきちんとした経済データを基に証明されれば済むことなのです。そうすれば、難民認定数の少ない日本は自ら経済成長の歩みを止めていると批判できることでしょう。

 なぜ、そのような正攻法を採用しようとはしないのでしょうか。移民受け入れによるメリットがサッカー代表チームが強くなるだけでは寂しいものです。せめて、スポーツ以外の分野ででも高い貢献度があったことを証明し、訴える必要があります。

 日本で申請した人の待遇が問題と主張するのであれば、申請者がイギリス行きを希望した時点でイギリス入国が認められ、イギリス国内で改めて難民審査が行われるという形式の採用をイギリス政府に提案すれば良いのです。

 ウィングフィールド=ヘイズ特派員はこの程度の提案は行っていることでしょう。もし、このような提案すら行っていないのであれば、彼は単なる日本を批判し、優れた白人の価値観を訴えるだけの活動家に過ぎないと言い切って問題ないと言えるのではないでしょうか。