トルコとの関係改善で難しい舵取りが求められるアメリカ

 アメリカのバイデン副大統領がトルコを訪問し、トルコのエルドアン大統領と会談することが発表されたと読売新聞が報じています。

 両国の関係改善を狙ったものでしょうが、アメリカが希望する効果を得ることは難しいと思われます。

 

 米ホワイトハウスは13日、バイデン米副大統領がトルコの首都アンカラを8月下旬に訪問し、同国のエルドアン大統領と会談すると発表した。

 (中略)

 トルコは、米国に住むイスラム教指導者フェトフッラー・ギュレン師がクーデター未遂事件の黒幕だとみて、身柄の引き渡しを求めている。米側はこれに応じず、事件後のエルドアン氏の強権的な姿勢に懸念を示している。

 

 まず、アメリカとトルコの関係ですが、オバマ政権の外交政策により、良好とは言えません。

 「アサド(シリア大統領)は去らなければならない」とオバマ大統領が演説し、シリア反政府勢力の結集を煽ったにもかかわらず、押し切れそうにないと見るや、後始末をトルコに丸投げしたのです。その上、トルコと敵対関係にあるイランにIS対応で協力を求め、友好関係を築こうとしたのですから、不信感を招いて当然となります。

 NATO加盟国であるトルコより、軍事面でイランを重視する姿勢を見せたのですから、両国間の関係は冷え切っていると言えるでしょう。

 

 そのような状況下でトルコ軍の一部がクーデターを起こしました。クーデターそのものは失敗に終わりましたが、トルコ国民がエルドアン大統領を支持していることが世界中に報じられることとなりました。

 トルコは「クーデターの首謀者はアメリカに在住するギュレン師の支持者」であるとし、身柄の引き渡しを要求しています。

 エルドアン大統領の手際があまりに良すぎることもあり、強権的な姿勢に懸念の声が出ていることは事実です。しかし、民主主義で選出された政権を軍事力で転覆させようとする勢力の姿勢に賛同することはできないため、有効なカードがないことが実情です。

 もし、トルコ側がギュレン師が関わっていたという証拠を提示した場合、アメリカはどうするのでしょうか。ロシアとの関係も改善しつつあるトルコは強気に出てくることが想定されます。

 

 アメリカ側が “ギフト” を提示しないのであれば、両国の関係が改善する可能性は低いでしょう。トルコには『ヨーロッパに難民が流出することを黙認する』という厄介なカードが手の内にあるのです。

 シリア・イラク難民がアメリカに大量に押し寄せることはありません。そのため、強気に出ることができる状況なのですが、シリア騒乱への対応による信頼低下で「まずは口先だけでないことを行動で示せ、そちらの要望を検討するのはその後だ」と一喝されるだけでしょう。

 NATOという同盟国であっても、アメリカは責任を果たさない場合もあるという現実をトルコとの関係悪化から頭の片隅に留めておく必要があると言えるのではないでしょうか。