「トランプ大統領は反TPPだぞ」と主張する皆さま、トランプ大統領が “パリ協定懐疑派” であることもお忘れなく

 国会では TPP 承認に向けての論戦の舞台が参議院へと移りましたが、TPP に反対する野党・民進党などが「トランプ大統領が TPP に反対しているから、審議の意味がない」と批判しています。

 政府の “アメリカ追従路線” を批判してきた野党勢力がアメリカ追従を主張する姿は非常に滑稽です。また、トランプ大統領の姿勢に追従するのであれば、『地球温暖化に懐疑的な方針』も追従しなければなりません。

 民進党などの野党は安倍政権を批判できれば、政策の整合性や実現性などどうでも良いと考えているのでしょう。

 

 新しいアメリカ大統領に就任するドナルド・トランプ氏ですが、100日間のアクションプラン(PDF)を10月の時点で公表しています。新大統領として、公約として提示した政策を実施することが予想されるため、どういった内容が言及されているかに注目が集まっているのです。

 その中で、アメリカの労働者を守るための7つのアクションとして言及されているのは以下のとおりです。

 

  1. NAFTA 脱退も視野に入れた交渉を行う
  2. TPP からの脱退する
  3. 中国を為替操作国に指定する
  4. アメリカの労働者が不利益を被る外国為替操作を特定し、法的措置を講じるよう商務長官に命じる
  5. シェールガス、石油、天然ガス、石炭を含む50億ドル規模の雇用生産用エネルギーの生産制限を解除する
  6. キーストーン・パイプラインのような重要なエネルギー・インフラプロジェクトを推進させる
  7. 数十億ドル規模の気候変動プログラムに対する国連への拠出は取りやめ、その資金はアメリカの水道およびインフラ整備に回す

 トランプ大統領を行動を “印籠” として用いている野党勢力の皆さまは大丈夫でしょうか。確かに、トランプ大統領は TPP に反対しています。しかし、それと同じ位置づけで、パリ協定など気候変動プログラムに参加しないと明記しているのです。

 

 「パリ協定の批准は国益となる」と野党は諸手を挙げて歓迎していましたが、気候変動に対して懐疑的な見解を明確にしているトランプ大統領に姿勢とは逆の立ち位置に該当します。

 なぜ、パリ協定の批准には反対の意を表明しないのでしょうか。

 「トランプ大統領が反対している」という事実を前面に押し出すなら、気候変動プログラムに対する国連への支出金やパリ協定についても反対意見を表明しているはずです。日本もアメリカと同じく拠出する側なのですから、「日本国内の労働者を守るために資金を回すべき」と主張することが王道でなければなりません。

 しかし、民進党など野党は日本国内の労働者を優先する気配はなく、労働者が働く企業の市場環境を厳しくすることに注力する始末です。これでは最大のボリュームゾーンである中間層の支持を得ることは難しいでしょう。

 

 トランプ大統領が「TPPを批准しない」と言うのであれば、日本政府は TPP を批准しておくことに意味があります。

 アメリカ側が翻意する可能性が残されていますし、新たな交渉を求められた場合に “ギフト” を要求することが可能になるからです。アメリカ保護貿易の色合いを強める内容を希望するなら、要求に相応するだけの譲歩を別分野で求めることができることになります。

 これは「現在の TPP 内容で承認しており、こちら側がマイナスを被る変更希望に応じることはできない」という “交渉上の撤退ライン” ができることを意味しています。

 つまり、TPP の合意内容で気に入らない部分を「再交渉が発生した際に削除してくれ」と国会議員に要望することが可能になるのです。そうした交渉事に長けた人物を組織内に抱えているなら、今回のトランプ大統領が反 TPP を掲げたことをプラスに利用しようとする動きも出てくるでしょう。

 

 逆に、1番マズい展開はトランプ大統領が翻意することです。アメリカのラストベルトにインフラ投資をした上で農業や工業が最新状態にアップデートするタイミングで、TPP が効力を発揮する形に持ち込まれると批准を怠った国は産業面で大きく出遅れることになります。

 交渉で合意した事項はきちんと遵守する姿勢を国内外にアピールすることは信頼を築く上で重要です。ISDS 条項を懸念する声が野党から上がっていますが、政府が投資家を騙し討ちするような “裏切り政策” を実行しなければ、訴訟になることはありません。

 仮に、トランプ大統領が示したように合意事項を政府がひっくり返すと、ISDS 条項で敗けるのは政府側です。“民意” を背景に政府が好き勝手することを制限する目的なのですから、責任を持って政策を実行する政権であれば、ISDS 条項を過度に問題視する必要はないでしょう。

 

 民進党のように、政策に一貫性がなく、責任を担うことを嫌う政党には ISDS 条項は恐怖でしょう。しかし、人気取りを目的とした根拠のない政策変更を制限できることは有権者にはプラスにもなることです。

 まずは “トランプ大統領の意向” を前面に押し出す民進党などの野党に「トランプ大統領は気候変動への拠出金にも否定的だが、御党はそのことをどう考えているのか」と聞いてみる意味はあるでしょう。メディアにはそうした役割を期待したいところです。