学芸員の知識不足で文化財の屏風絵が変色、修復に3000万円が費やされる

 “人類や地域にとって大切な資料を取り扱い、人々に新しい知識を普及し創造する重要な仕事” に従事している学芸員の仕事ぶりにより、多額の追加費用が必要になっていた事態が明るみに出ることとなりました。

 朝日新聞によりますと、熊本市の美術振興財団が高知県指定の文化財・屏風絵5枚を防虫処理の際に変色させてしまい、3000万円の修復費を使ったものの、完全修復は困難な状況で返却することになったとのことです。

 

 財団によると、屛風絵は2010年7月、企画展のために借り、防虫処理の「燻蒸(くんじょう)」をした後に緑色の部分が黒く変色した。処理を委託した熊本の業者が、研究機関が美術品には使わないよう注意喚起しているリン化アルミニウムを含む薬剤を使用したといい、緑の顔料に含まれる銅が酸化したとみられる。学芸員は作業に立ち会わず、使ってはいけない薬剤の知識もなかった。

 作品の所有者や管理する施設「絵金蔵(えきんぐら)」と対応を話し合い、薬剤の除去や修復を進めてきた。文化財の修理を手がける東京文化財研究所などが協力。昨年12月に修復を終えたが、変色した部分は完全には元に戻らなかった。修復などには約3千万円かかったという。

 

 本職の部分に対する “知識不足” は学芸員への風当たりを強めることになるでしょう。「防虫処理」は行う必要があるなら、実施する際に必要な知識は伝承しなければなりません。

 しかし、作業を委託するだけで、立会いはおろか、(防虫処理の燻蒸に)使ってはいけない薬剤の知識もないようでは学芸員の存在意義に大きな疑問符が付くことになるのです。

 

 保存・管理の方法が1つではありませんし、学芸員個々の得手・不得手はあって当然です。「オールマイティーの学芸員」がいれば理想ですが、これは「全分野に精通した医師」を求めることと同義であり、非現実的と見ておく必要があります。

 その前提で考えれば、資料の管理、保存・修復、文化財の価値研究、宣伝など、いくつかの分野に特化した学芸員による組織を編成したで運用される体制を作ることが目的となるでしょう。

 すべての財団が全部門を抱える必要はなく、頻度の少ない部門については “掛け持ち” を認め、効率的に動ける仕組み作りに注力する必要があるのです。プロモーション活動などの営業活動はその分野が得意で美術品などの造形が深い人物や学芸員の意見を取り入れるべきだからです。

 

 各分野にプロフェッショナル色の強い人物を配置するのであれば、それを取りまとめる組織のトップは「マネジメントのプロ」でなければなりません。

 “昔からの付き合い” を理由に業務を委託するのではなく、求められる作業を実施する能力を持った個人や組織に適切な金額で作業を依頼する契約を締結することが求められるからです。

 熊本市で起きたケースでは修復作業に約3000万円を費やしましたが、完全に元どおりとはなりませんでした。「知識を持った学芸員が作業に立ち会う」という決断を下し、実行に移すことができていれば、損害を防ぐことができていただけに大きく悔やまれるところです。

 ただし、これは知識を持った学芸員がいる場合です。知識のない学芸員であれば、立ち会ったところで何の意味もない訳ですから、この点を深く留意する必要があるのです。

 

 知識については最新情報を確認できる体制を構築しておく必要がありますし、疑問に感じた点は些細なものであっても、学芸員の間などで質問しあえる “風通しの良さ” も重要となります。

 プロフェッショナルな姿勢を持つことは重要ですが、1人で悩み、間違った判断を独断で下してしまうことのリスクが大きすぎるからです。この点を解消し、オープンにしておくことが学芸員に対する風当たりを強めない要素となることでしょう。

 多大なの損失を出す前に、必要となる学芸員の知識向上のためにどれだけ予算を効率的に使い、信用を得ることができるのかに注目する必要があると言えるでのはないでしょうか。