「福島第一原発の廃炉」と「柏崎刈羽原発の運転再開」を交換条件にする原子力規制委員会は本来の仕事をしていない

 NHK によりますと、原子力規制委員会の田中委員長が「福島第一原発の廃炉に向けた具体的な方針が示されなければ、柏崎刈羽原発の再稼動を認めない」とコメントしたと報じています。

 “科学” に基づく「審査」をしなければならない規制委員会が “政治” を持ち出したことは非常に問題です。規制委員会の存在意義そのものが問われる発言と言えるでしょう。

 

 原子力規制委員会の田中俊一委員長は、12日の定例会見で、東京電力が福島第一原子力発電所の廃炉をめぐる課題への対応について、具体的な方針を示していないことを改めて批判したうえで、納得できる方針を示さないかぎり、審査の中で柏崎刈羽原発を合格させない考えを示しました。

 

 田中委員長の発言を問題視できないのであれば、報道機関として致命的です。なぜなら、複数の問題発言が含まれているからです。

 原子力規制委員会に求められている “本来の仕事” をせず、政治的なパフォーマンスをする色合いが強くなっているのです。存在意義そのものから問わなければならない状況と言えるでしょう。

 

1:原発再稼動の権限は規制委員会には存在しない

 そもそも論ですが、原子力規制委員会は原発再稼動を許可する法的根拠を保持していません。規制委員会が検査しているのは「新しい基準に適合しているか」という点だけだからです。

 これは国会で閣議決定された答弁書からも明らかです。

 一 停止している原発を再稼働させる場合、原子力規制委員会は平成二十四年に改正された原子炉等規制法に基づき、新規制基準に適合するときにのみ再稼働を認可することができると承知しているがそれで正しいか。


 一について

 原子力規制委員会は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号)により発電用原子炉(同法第二条第五項に規定する発電用原子炉をいう。以下同じ。)の規制を行っているが、同法において、発電用原子炉の再稼働を認可する規定はない。

 つまり、規制委員会には原発再稼動を止める法的根拠に基づく権限はないのです。検査を終えたのであれば、原子力発電所の運転を再開することはできる状態なのです。

 

2:廃炉と再稼動をセットする “政治的な姿勢”

 再稼動に対する権限を持たない原子力規制委員会が「福島第一原発の廃炉について納得できる具体案を示さなければ、柏崎刈羽原発の再稼動はさせない」と述べていることは問題です。

 廃炉に向けて動くのは東京電力ですが、具体的な基準を作るのは規制委員会の役割です。本来の仕事を果たしているのでしょうか。“納得できる” という曖昧な基準を持ち出すことは到底規制委員会のやることではありません。

 また、交換条件として「柏崎刈羽原発の再稼動」をカードとして持ち出していますが、規制委員会は原発再稼動についての権限を持っていないことは明確です。これは明らかな “失言” というレベルのものです。

 科学的知見に基づく真っ当な「審査」ができない規制委員会の存在意義そのものが問われていると言えるのではないでしょうか。