ドイツの製造業が成功した理由はグローバル化ではなく、ユーロによる恩恵

 内閣府が世界経済に関するレポート『世界経済の潮流』を公表し、2017年上半期版で「ドイツは国際分業の成功例であり、グローバル化の成功例」と称賛されていると読売新聞が伝えています。

 ただ、この分析は根本的に間違っていると言えるでしょう。なぜなら、ドイツの製造業が好調の理由はグローバル化ではなく、ヨーロッパの単一通貨ユーロによる恩恵だからです。

 

 リポートは、グローバル化と各国の経済成長の関係性に焦点を当てた。

 中国など新興国の台頭で、世界の輸出総額に占める先進国のシェア(占有率)が低下する中、ドイツは日本や米国より落ち込みが緩やかだと指摘した。主力の自動車産業が海外への生産拠点の移転を進めたが、国内は高品質モデルの生産に特化し、付加価値の向上につなげたとの見方を示した。

 ドイツの例を踏まえ、グローバル化の進展は経済成長にプラスであり、「企業や政策当局は新たな成長のチャンスと捉えることが重要」と訴えている。

 

 この記事だけ読むと騙されることになります。なぜなら、ドイツが生産拠点を移した国などに言及されていないからです。

 報告書の中では「中東欧の国に移転」とありますが、EU 加盟国である中東欧の国に移転することは日本人がイメージするグローバル化とは条件自体が大きく異なるからです。そうした前提条件を見落とし、安易にグローバル化を称賛する内容のレポートの方が問題と言えるでしょう。

 

1:ドイツからチェコに大衆車の製造比重を移すことはグローバル化なのか?

 フォルクスワーゲン・グループを例に出して考えてみましょう。グループ傘下には高級車から大衆車まで幅広いラインナップが揃っています。

 高級車の代表格であるアウディをドイツ国内で生産するよう集約し、フォルクスワーゲンなど一般車をシュコダ(チェコ)が持つ工場で生産するよう集約を図る。

 これは “グローバル化” と言えるでしょうか。チェコは EU 加盟国であり、ドイツで生産してもチェコで生産しても規制は統一されています。

 「人件費がドイツより安い」という強みはありますが、ドイツ国内での製造業の雇用人数が増えることにはならないのです。

 

2:ドイツ製造業の強みはヨーロッパ共通通貨ユーロである

 ドイツの製造業が強い理由はヨーロッパの統一通貨であるユーロです。

 「経済の強さ」と「通貨の強さ」は比例関係にあります。しかし、ドイツはユーロを使っており、その関係が極めて薄いのです。

 つまり、ドイツが以前のマルクのような独自通貨を採用していると、通貨高でドイツ国内の製造業は競争力を持つことはなかったのです。それが PIIGS などの EU 加盟国が通貨を引き下げることで、割安なレートを手にし、国際競争力を手に入れている状態なのです。

 “政治と経済の統合” を主張する EU ですが、『ユーロ債』は存在しません。これがドイツの一人勝ちが起きる理由と言えるでしょう。

  • 周辺国がユーロの為替レートを下げる要因となる
    → ドイツ企業の国際競争力が高まる
  • 『ユーロ債』が存在しない
    → 『ドイツ国債』を発行し、低い利回りで資金を得られる

 

 『ユーロ債』が存在すれば、最終的な責任は “最も資金を持つ国” であるドイツになります。しかし、現実には『ユーロ債』が存在しない訳ですから、ユーロによる恩恵を通貨安という形で享受しているドイツが最もオイシイ思いをしていることになるのです。

 周辺国を “生贄” にすることで通貨安の状態を起こし、国内の製造業を強くする。これをグローバル化の成功例とは言えないでしょう。

 『通貨:円』と『日本国債』が連動する日本では “ドイツ型のグローバル化” はできませんし、見習うべきではありません。為替相場が企業活動にどれだけ大きな影響を与えるかという点をマスコミの経済部は読者や視聴者に対し、丁寧な説明を行うべきなのではないでしょうか。