「治る見込みのない病気を患った場合、延命措置に対する保険適用をどこまで認めるのか」という点での議論を日本でも行うべき

 多くの先進国では医療費を始めとする増え続ける社会保障費が予算を圧迫する事態となっています。

 イギリスでは延命治療を巡って関心を集め、裁判にもなった難病の赤ちゃんが亡くなったと NHK が伝えています。日本でもこのようなケースに対し、「どこまで保険適用を認めるか」という点で議論を本格化させなればならない時期に来ていると言えるでしょう。

 

 延命のための治療をめぐりローマ法王が支援を表明するなど世界的な関心を集めていたイギリスの難病の赤ちゃんが死亡したことが28日明らかになり、世界に悲しみが広がっています。

 (中略)

 チャーリーちゃんは生まれてまもなく「ミトコンドリアDNA枯渇症候群」という難病と診断され、病院側が治る見込みがないとして延命措置を中止するよう提案したのに対し、両親がアメリカに渡って治療を続けることを希望し、裁判で争われていました。

 チャーリーちゃんの治療をめぐっては、ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王やアメリカのトランプ大統領が支援を申し出るなど世界的に注目されていました。しかし、両親は28日声明を発表し、チャーリーちゃんが死亡したことを明らかにしました。

 

 

1:社会保証予算には限度がある

 予算には限りがあるため、湯水のごとく費やすことはできません。そのため、“線引き” することは必須であり、「どこで線引きするのか」を議論しなければならない時期に来ているのです。

 線引きをしなければならない理由は高齢化が進み、予算の圧迫が限度を超えているからです。

 日本では医療費を含む社会保障費の増大が止まらず、保険料の源泉徴収額は上がる一方です。資産のない現役世代から裕福な高齢世帯への “仕送り” が行われている状況で、これ以上の負担増を強いることは世代間の断絶に拍車をかける要因となることでしょう。

 

2:問題は「保険適用の範囲」

 社会保障で問題となるのは「保険適用の範囲」です。患者が全額自費で治療を受けるのであれば問題とはなりませんが、加入者全員が払った保険料から支払いが行われるため、不公平感を呼びやすいという性質が保険制度にはあります。

 そのため、「財政面から保険制度の現状維持が難しくなっている中、治る見込みのない病気の患者への延命措置に対する保険制度の利用をどこまで認めるのか」という点は避けては通れないのです。

 高額療養費制度があるため、支払いの限度額が決まっています。つまり、限度額以上の医療費は保険加入者が分担して支払うことを意味しているのです。

 保険制度が設計された当時は理想的な形態だったと言えるでしょう。しかし、少子高齢化により、前提条件そのものが大きく変わりました。したがって、保険適応の範囲そのものを見直さなければならないと言えるはずです。

 

3:勤労など社会活動が可能なら、延命措置に対する保険適用は認められるべき

 線引きの基準ですが、「延命措置によって、勤労など社会活動が可能になる」ことを保険適用の条件とすべきです。

 例えば、人工透析は延命治療に含まれるでしょう。透析を行わなければ患者は亡くなりますので、“治る見込みのない病気” を患っていると言うこともできます。しかし、人工透析という延命措置を行えば、一般人と同じ社会活動を行うことが可能になる訳ですから、保険適用の対象から外す意味はありません。

 むしろ、“チューブ人間” という形で延命措置が採られ、入院している寝たきりの患者などへの保険適応に期限を設けるべきです。医師は患者の治療に全力を尽くしますが、皮肉なことに “治る見込み” がなければ、貴重な予算を浪費するだけなのです。

 終末医療の制度を整え、安楽死の是非についても議論を行わなければならない時期であると言えるのではないでしょうか。