シカの食害に悩む奈良県に「殺処分対応を止めろ」と一方的な要求する日本熊森協会は態度を改めるべき
大阪の毎日放送が兵庫県に本部を置く自然保護団体『日本熊森協会』が奈良県に対し、シカの殺処分を止めるよう要望書を提出したと報じています。
これは “言いがかり” と言えるでしょう。なぜなら、奈良県はシカの食害に悩んであり、対策が必要だからです。殺処分以外の対策を求めるのであれば、具体的な対案とともに予算をどう拠出するのかを提示することが最低限の責任と言えるでしょう。
奈良県は、特定の区域に限りシカを捕獲・殺処分することを決め、7月31日から罠を設置していました。これに対し、兵庫県に本部を置く自然保護団体が「捕獲して殺処分するのは残酷だ」として県に中止を求める要望書を提出しました。
「無用な殺生は犯罪だと思います。柵を強化することによって(食害の)被害を減らす、こっちに進むべきだと思います」(日本熊森協会・森山まり子会長)
奈良県は「方針を変える予定はない」とコメントしています。
『日本熊森協会』は「柵を強化することで食害被害を減らす」との方向性を示しています。具体的な対案を示している点は評価できますが、対策に必要となる予算について言及していないことが致命的です。
予算に限度がなければ、どのような対策でも採ることは可能です。しかし、実際には予算や現地の都合で “計画上は完璧な対策” が “空想上の対策” になってしまう場合もあるのです。
1:柵の設置とメンテナンスは誰がやるのか、そのための予算は承認されるのか?
奈良県は罠を仕掛ける形で殺処分を対策として行い、『日本熊森協会』は「柵を強化しろ」と要求しています。ここで注目すべきはどの程度の予算が必要となるかでしょう。
- 奈良県:罠と設置場所を用意
- 日本熊森協会:柵の強化(=柵の建設・管理と用地交渉)
奈良県の対策は非常に安価なものです。罠は猟友会から借りることができますし、設置場所は土地所有者からの協力を得ることで無料で貸してもらえるからです。食害に悩む地域に罠を設置するのですから、理解を得やすいと言えるでしょう。
しかし、『日本熊森協会』の案では予算規模は桁違いに増えます。「柵で防ぐ」のであれば、フェンスを建設しなければなりませんし、そのための用地をどうするかも地権者と相談しなければならないのです。また、柵の管理・メンテナンスにも費用がかかることになります。
2:福井県おおい町では総工費18億円でドン引きが起きた
「柵で防ぐ」という発想は “動物愛護” という観点からは理想的な対策と言えるでしょう。しかし、コスト面からはそうとは言い切れません。
なぜなら、過去に「福井県おおい町がシカやイノシシによる農作物への獣害対策として18億円を費やし、年500万円の被害を防ぐ」と報じられ、ちょっとした騒動になったからです。
- 目的:シカ、イノシシからの獣害対策
- 被害額:農作物(年500万円)
- 対策:高さ2メートルのフェンスを設置(総延長160キロ)
- 総工費:18億円(1キロ平均1125万円)
この時は被害額に対する事業費用があまりに高すぎたため、批判を招くこととなりました。ただ、距離に応じた予算単価が目安になることを考えると、奈良県では1億円近くの案件になると考えられます。
「1億円近くを費やして柵を作る」のか、「猟友会に委託し、罠による殺処分を継続する」のかを奈良県の住民に選択してもらう必要があると言えるでしょう
3:ツキノワグマの世話を高代寺に丸投げした『日本熊森協会』
『日本熊森協会』の名が知られる “きっかけ” となったのは大阪で捕獲されたツキノワグマの一件でしょう。
偶然捕獲したツキノワグマを大阪府は殺処分する方針を固めましたが、『日本熊森協会』は放獣を主張。妥協案として大阪府が全国の動物園に引き取りを打診するも、すべて断られ、万策尽きかけたところで高代寺が飼育用の敷地提供を申し出たことで話題になったからです。
ただ、飼育費用は全国からの寄付に頼っており、無責任であることに変わりありません。
『日本熊森協会』の森山まり子会長が「臆病で学習能力のあるクマは、人の存在を知れば里に下りない。共生の方法を学べば殺処分は必要ないと分かってもらえるはず」と明らかにピントのズレたことを述べています。
森山氏の主張が正しいのであれば、東北地方を中心に問題となっている “人食いクマ” がニュースになることはないはずです。
『日本熊森協会』が奈良県に対し、「シカの殺処分を止めろ」と要求するのであれば、自らが掲げる「柵の強化」を行うために必要となる予算を支援者からの寄付などで捻出すべきです。
そうした行動をせず、一方的に殺処分は許さないと主張するのはクレーマーと変わりません。代替案が現行政策よりも多額の予算が必要となるのであれば、その理由を有権者でもある地元住民に説明し、納得してもらわなければならないのです。
そのような地道な行為を続けることで信頼を得ることが自然保護団体の責務と言えるでしょう。資金がなければ、トヨを救うことすらできなかった現実を『日本熊森協会』は思い出すべきなのではないでしょうか。