ファンキー末吉氏、サンプリング調査の無作為抽出で JASRAC からの著作権分配額が決まるのはおかしいと主張

 爆風スランプのドラマーとして活躍したファンキー末吉氏が「JASRAC がライブハウスから徴収した著作権料の分配が不透明」として文化庁に上申書を提出したと朝日新聞が伝えています。

 ただ、この主張は相手にされないでしょう。利用状況を効果的に測定するためには「無作為抽出によるサンプリング調査」が有効ですし、全量調査は非効率的であると判断される可能性が高いからです。

 

 JASRACはライブハウスと包括契約を結んで定額の著作権料を徴収。3カ月ごとにホテルの宴会場やバーなどと共に800店を対象とするサンプリング調査をし、作曲家らへの分配額を算出している。

 末吉さんは、爆風スランプと別のバンドで2000年からの10年間に全国のライブハウスで約200回のライブを開き、自ら作曲した曲を演奏したが、それに対する分配がなかったと指摘。JASRACの分配が実態とかけ離れたものだとして、著作権等管理事業法に基づく業務改善命令を出すよう文化庁に求めた。

 

 

1:サンプル数「800」は十分と言えるのか

 サンプル数が 800 というのは少ないと感じる人もいるでしょう。しかし、他に「無作為抽出によるサンプリング調査」を行っている部分と比較すると多いと言えるはずです。

 例えば、視聴率を調べているビデオリサーチ社が関東地区のテレビ視聴率を調査するための機器設置数は 900 です。実際の世帯数は 2000 万弱ですから、22000世帯に1件の割合で視聴率を測定するための機器が設置されている状況と計算することができます。

 一方の JASRAC は 800 店をサンプリング調査の対象としています。包括契約を締結しているライブハウスやホテル、バーなどの総数が 80000 でも 100件に1件という割合になりますので、精度はかなり高いと言えるでしょう。

 

2:CD 不況と “ご当地アイドル” の関係でコンサート数は右肩上がり

 一般社団法人コンサートプロモーターズ協会が発表している「正会員による会場規模別公演数」は上昇傾向にあります。

画像:コンサートプロモーターズ協会正会員による公演数

 ファンキー末吉氏は「年平均20回のライブを行っていた」と主張していますが、ライブハウスの公演数は『コンサートプロモーターズ協会』の正会員が行っただけで年6000回を超えています。正会員による公演数の比率としては 45% ほどで推移しており、実際の公演数は10000回を軽く超えていることでしょう。

 公演数が増えているのは CD など楽曲販売がデジタルに流れたことで不況化したことでライブに比重が移ったことに加え、“ご当地アイドル” がライブをする頻度が増えたことが要因だと考えられます。

 公演での演奏回数が多い曲ほど著作権の分配割合が高くなる訳ですから、公演数全体の 0.2% 未満ほどしか占めないファンキー末吉氏の新バンドにまで配分がされることは難しいと言えるでしょう。

 

3:JASRAC に楽曲の管理を信託するということ

 ファンキー末吉氏は「自らが経営するライブハウスでの著作権料の支払い」に関し、JASRAC と裁判を行っています。

  • ライブハウスは演奏の主体ではない
  • 自らの作品の演奏は著作権侵害ではない
  • 過失はない

 上述のような主張を展開しましたが、地裁・知財高裁・最高裁のいずれにおいてもファンキー末吉氏の主張は認められず、敗訴となりました。ちなみに、JASRAC に著作物の管理を信託すると次のようになります。

画像:JASRAC に著作権管理を信託した場合

 自分の著作物なのに利用料を支払うのは納得できないでしょう。しかし、自分以外の利用者から JASRAC が代わりに徴収をしているのです。この利益と不利益を天秤にかけ、自らの著作物をどう管理するかを判断しなければなりません。

 JASRAC の方針に反対する著作権保有者が中心となって別団体を設立することは可能です。その場合はテレビ局や Youtube など大手企業と個別に条件交渉を行う必要が生じますので、組織運営を軌道に乗せるまでが大変です。

 また、全国の音楽教室のように「払わない」とゴネる相手からどのように利用料を徴収するか、保有者ごとに異なる「利用料免除の適応範囲」をどう適用するのかなど別の意味で問題が起きることにもなるでしょう。

 

4:自曲のカラオケをヘビーローテションして、著作権料を不正受領した例もある

 ライブハウスなどで生演奏されている曲が正確にすべて把握することができれば理想的ですが、実際には莫大な手間と費用が必要になるため、実現は難しいでしょう。

 自己申告にすると、虚偽申告をすることで利益を得られる立場にいる人ほど不正の誘惑に敗けてしまう可能性が高くなるからです。極端な例では自作の曲をカラオケの配信システムの乗せ、ヘビーローテションをしたことで1700万円の著作権料を不正に受領していたケースもあります。

 つまり、申告自体が不正である可能性も考慮する必要があり、“抜き打ちチェック” 的な仕掛けは組み込んでおかなければ、正しく分配されないという問題が生じることもあるのです。

 「無作為抽出によるサンプリング調査」に致命的な欠陥があることが証明されない限り、ファンキー末吉氏の要望に沿った回答が行政から得られることはないと言えるのではないでしょうか。