ピョンチャン(平昌)五輪用の鉄道路線で自動列車制御システムが作動せず、死亡事故が発生

 北朝鮮情勢などピョンチャン(平昌)五輪を取り巻く環境は厳しい状況です。

 その中で、ソウルやインチョンから選手団や観客を輸送する大動脈として期待されている鉄道網で、列車制御システムが作動せず、死亡事故が発生したと朝鮮日報が伝えています。

 観戦に訪れることを考えている日本人ファンが無視できるニュースではないだけに、マスコミは原因究明などを含めて取り上げる必要があるはずです。

 

 13日午前4時30分ごろ、京畿道楊平郡を走る首都圏電鉄・京義中央線のソウル方向の線路で、試験運転中の列車が停車中の列車に追突する事故があった。

 この事故で、動いていた列車に乗っていた機関士(45)が死亡し、別の機関士(64)はあばら骨骨折の重傷で病院に搬送された。このほか2台の列車の機関士と信号手ら5人が軽傷を負った。

 (中略)

 韓国鉄道公社(KORAIL)によると、2台の列車は最近、自動列車停止装置(ATP)の改良作業を終えて、この日は作動テストを実施していた。

 

 呼び名は各国で異なりますが、先進国では列車制御システムが導入されていることが一般的です。

 日本では自動列車停止装置(ATS, Automatic Train Stop)や自動列車制御装置(ATC, Automatic Train Control)が採用されており、韓国では ATP が採用されているという状況です。

 事故を防ぐために必要不可欠なシステムなのですが、それが試験走行で機能しておらず、死亡事故が発生してしまったのです。

 

1:試験走行中の死亡事故は重大インシデントである

 事故はインチョン空港からカンヌン(江陵)までを結ぶピョンチャン(平昌)五輪用に整備が進んでいる路線で発生しました。

 全線が高速鉄道で整備されているのではなく、一部は在来線の最高速度を 150 km/h まで引き上げる高速化を進めており、この区間で事故が起きています。先行する列車が停車していたところに後続列車が追突した訳ですから、ATP が機能していたかが争点になります。

  • ATP が機能せず
    → 列車制御システムの欠陥
  • ATP は機能したものの、停車しきれず
    → 設置間隔または最高速度の問題

 まずは韓国の列車制御システムである ATP が機能していたかを確認することが優先事項です。それによって、解決策が変わってくるからです。

 

2:「試験内容を事前に通知せよ」との労組の主張は筋違い

 今回の事故に対し、鉄道労組が「事前協議がないことがおかしい」と批判していると聯合ニュース(韓国語版)が伝えています。しかし、ATP の試験をするのですから、運転手が手動でブレーキをかけてはテストにならないのです。

  • 事故の主原因は2つの列車を同じ路線で走行させたことだ
  • 試験方法に対し、事前協議がなかった
  • 後続列車に最高速度での運行指示が出されていたことはおかしい
  • 先行、後続ともにデータ障害が起きていたが、試験走行を止めなかった

 労組の主張で気になる点は最後の部分でしょう。「先行列車にもデータ障害が起きていた」という点です。これは ATP のシステムそのものにトラブルが存在していた可能性があることを示唆しているからです。

 オリンピック時には選手団や観客をピストン輸送する必要があるため、同じ線路でフル稼働させることは想定内でなければなりません。また、最高速度での運行も営業運転を想定したものでしょう。これらの点には問題はないのです。

 

3:「列車制御システムをオフにしていた」という前科が韓国には存在する

 日本では信じられない価値観ですが、2014年にソウルの地下鉄で発生した追突事故では「エラーが頻発するから」との理由で自動列車停止システムを日頃からオフにして運行していたということが明るみになっています。

 『ソウルメトロ』や『KORAIL(韓国鉄道公社)』に所属する運転手が認めているのです。重大事故を防ぐためのアラートを「エラーとして煩わしく感じ、システムをオフにする」ということが常態化していれば、事故は起きるべくして起きたと言わざるを得ないでしょう。

 運行管理を雑にしていれば、重大事故が起きることは当然の結末なのです。“ウリ” に損害がなければ、“ナム” がどうなろうと、知ったことではないという価値観が存在する韓国の安全に対する認識は日本と同じだと考えていると痛い目を見ることになります。

 ピョンチャン(平昌)五輪の現地取材に向かう日本のマスコミが “運行管理に対する雑な認識” の被害者になる可能性は十分にあるのです。当事者意識があれば、問題を無視することはできないでしょう。人命に関わるテーマに対し、得意の取材力を発揮すべきと言えるのではないでしょうか。