「ネットの炎上は全体の 3% だから、気にすることはない」という主張に潜む危険な落とし穴

 NHK がネット上で批判的な意見が殺到する「炎上」について、そういう書き込みをするひとは全体の 3% であることが文化庁の調査で判明したと報じています。

 「全体が批判しているのではなく、鵜呑みにしないことが大切」と NHK は結論付けていますが、これは間違いと言えるでしょう。なぜなら、文化庁が行った質問内容を読み違えているからです。

 

 インターネット上で批判的な意見が殺到する、いわゆる「炎上」について、自分もそうした書き込みや拡散をすると思う人は全体の3%にとどまることが文化庁の調査でわかりました。

 (中略)

 インターネット上の「炎上」は現在、著名人だけでなく、一般の人たちの間でも大きな社会問題となることが少なくないですが、日本語学が専門の日本大学の田中ゆかり教授は「炎上が起こるとネット中が批判しているように見えるが、実際には少数であることがわかる。炎上が全員の意見だと、うのみにせず、冷静に捉えることが大切だ」と指摘しています。

 

 NHK の記事で最初に気になるのは出典が明記されていないことです。

 原典は文化庁が毎年行っている「国語に関する世論調査の結果について」という統計調査であり、平成28年度版(PDF)で示された内容を NHK が報じたに過ぎないからです。この点を明記していないことは報道機関として問題があると言えるでしょう。

 

1:「 “炎上” しているサイトやアカウントに、書き込み・拡散をしますか」という質問の意味

 文化庁が行った質問は「 “炎上” しているサイトやアカウントに、書き込み・拡散をしますか」というものです。

 これは既に炎上しているサイトやアカウントへの対応を質問したものであり、炎上の全体像を捉えた質問ではありません。なぜなら、炎上の原因となった批判的な投稿分がカウントされていないからです。

 炎上のプロセスをマーケティング分野で知られる『イノベーター理論』で考えると、イメージしやすいはずです。ここでは「著名人が問題発言をツイートした場合」を想定することにしましょう。

イノベーター 著名人の “問題発言” に気づき、批判的な意見を発信する
アーリーアダプター 問題発言の存在を確認し、イノベーターの見解に賛同。自らのフォロワーなどに「著名人の問題ツイート」を提起する
キャズム(=炎上するかの境界線)
アーリーマジョリティ 炎上が起きていることを自らのアンテナで知ることができる層
レイトマジョリティ 炎上の存在をネットメディアやテレビなどが報じてから知る層
ラガード そもそもインターネットを利用しない層

 問題発言の内容がひどければ、“イノベーター” と “アーリーアダプター” の部分が全体に占める割合が高くなります。

 ここが炎上を起こした火元になる訳ですから、「 “炎上” しているサイトやアカウントに、書き込み・拡散をしますか」という質問は “アーリーマジョリティ” に位置する(と思われる)人々の対応を聞いたに過ぎないのです。

 

2:ネットを使わない年齢層が加わった数字の価値は低い

 NHK では「ネットの炎上に加わるのは 3%」と述べていますが、年齢別に見ると、“デジタルネイティブ” と呼ばれる若い世代ほど割合は高くなっているのです。

画像:炎上に遭遇した場合の年齢別対応

 10代(16〜19歳)では 5.3%、20代では 10.7% と若い世代ほど炎上に加勢しやすい傾向が出ていると言えるです。

 若い世代はインターネット経由で情報を得る比重が高まっており、自分の応援するアイドルや趣味がバッシングを受ければ、即座に反論することでしょう。その “バッシング” に大量の反論が寄せられれば、「炎上」として世間に認識されるケースもあるのです。

 「書き込みをする人はごくわずか」という思い込みで安心したいのは炎上をさせることが多いマスコミ自身と言えるでしょう。

 

3:割合(パーセンテージ)で「絶対数」を誤魔化すことはできない

 3% という数字は全体から見れば、少数派です。しかし、インターネット利用者という大きなカテゴリで見ると、絶対数は大きなものとなります。

 全体から見れば少数派とは言え、批判的な意見が数多く寄せられる訳ですから、炎上すると怖さを感じることになる訳です。見ず知らずの酔っ払いに街中で急に絡まれたようなものです。“難癖” なのか、“まっとうな批判・指摘” なのかによって周囲の対応は変わってくるでしょう。

 クソリプに賛同が集まることはまずありませんが、根拠が提示された反論には支持が集まりやすいのです。「炎上を気にする必要はない」と考えるのであれば、「炎上した原因を検証すること」が必要です。なぜなら、自らの投稿内容に問題があり、炎上しているケースがあるからです。

 デマや誹謗中傷となる投稿すれば、炎上します。その場合は「書き込んでいるのは少数派だから、気にする必要はない」と開き直ると、風評被害や名誉毀損といった別の問題を引き起こすことになってしまいます。

 大事なことは批判的な投稿をして炎上をさせている人々は少数派であり、多数派は態度を決めかねているということです。一部の批判意見を鵜呑みにする訳ではなく、絶対的多数派である中立的な第三者に自らの主張を支持してもらえる内容を発信できているかを確認すべきなのです。

 炎上そのものについての基本メカニズムを認識していない状況で間違った対策を推奨すると、落とし穴で足をとられ、大火傷をするリスクがあることを自覚する必要があると言えるのではないでしょうか。