ノーベル賞が受賞できるかは「基礎研究に資本を投入し続けていたか」が大前提である

 2017年のノーベル賞が発表され、自然科学分野で日本人の受賞者はいませんでした。

 このことに対し、松山政司科学技術相が危機感を抱いていると日経新聞が伝えています。基礎研究に予算が回されておらず、おかしな方向に向いていた文科省の方向性が是正されるかが注目点と言えるでしょう。

 

 松山政司科学技術相は、2017年のノーベル賞で自然科学分野に日本人の受賞者がいなかったことについて「日本の基礎研究力の低下が危惧されている」との認識を示した。6日の閣議後の記者会見で「大変残念だ」と述べた。

 2日から順次発表のあった「生理学・医学賞」「物理学賞」「化学賞」のいずれも日本人は受賞を逃した。

 (中略)

 松山科技相はこうしたランキングの低下を憂い、大学の研究を支える基盤経費の減少や、任期付きの研究者が増えていることなどが背景にあると分析した。「経費の確実な措置や研究を支える設備を強化する。民間にも研究投資を促し、研究力強化に努める」と強調した。

 

 

1:ノーベル賞の受賞には研究発表から20年前後のタイムラグがある

 ノーベル賞が授与されるかの大きな特徴は「研究成果が正しいものであったかを極めて長い時間をかけて判断する」という点です。

 これは不正が行われた研究に賞を与えたことで、ノーベル賞の権威が損なわれることを予防するという意味合いがあります。そのため、ノーベル賞の受賞対象となった研究はどれも研究結果が発表されてから、10〜20年近くのタイムラグが生じることが一般的です。

 例外は iPS 細胞の研究を行った山中伸弥教授のケースでしょう。

 これは韓国のファン・ウソク教授が発表した ES 細胞に関する論文が完全な捏造であったことが2005年に大問題となり、「再生医療分野の研究を破壊・停滞させていた」という “特殊な事情” があったからです。山中教授の受賞はもう 2〜3 年後の2015年でも「かなり早い方」に分類されたと言えるでしょう。

 

2:ノーベル賞の受賞者が「研究環境が苦しい」と異口同音に述べる理由

 ノーベル賞を受賞した日本人の研究者が「研究環境が厳しくなっている」と一様に述べるのには理由があります。なぜなら、本当に研究環境が苦しくなっているからです。

 研究発表からノーベル賞受賞まではタイムラグがあり、『過去の研究成果』がノーベル賞として評価されたにすぎないのです。つまり、現在の研究環境への投資が怠られている状況を改善しなければ、将来のノーベル賞は “夢のまた夢” なのです。

 研究の第一線にいるからこそ、自分たちの現在の研究環境が海外の研究室と比較して劣っていることを強く自覚しているのでしょう。だから、ノーベル賞を受賞したどの日本人研究者も研究費が少なくなっていることを問題視しているのです。

 

3:大学数が増え、文系に予算が費やされる状況では改善は望めない

 大学数が増加し、教育予算が横ばいであるなら、1つの研究室への予算配分は減少します。基礎研究を「成果が出ない」との理由で予算を減らせば、ノーベル賞はますます遠ざかることでしょう。

 これは文科省の方針ミスです。「科学技術省」と「文科庁」という形で省庁再編をするぐらいの大鉈を振るわなければ、ジリ貧となることは確実だからです。

 基礎研究は地味ですし、応用研究のように一獲千金が狙える話題性の強い分野ではありません。「 “未開の地” の情報を集めること」が研究内容に近いのですから、他の分野とは異なる制度が必要になります。

 研究者の雇用や予算は「長期間に渡る安定した保証」が不可欠ですし、利益やリターンを求めることはできません。ただ、基礎研究の成果を素早く応用研究し、実用化に成功すれば、市場で大きなシェアを手にすることができることでしょう。

 研究論文すらまともに執筆していない “天下り教授” や “客寄せパンダ教授” を解任し、若手研究者の正規雇用などに舵を切る必要があると言えるのではないでしょうか。