ラッカ陥落、シリア・イラク情勢は「クルド人への処遇」が重要点に

 過激派組織ISが首都と位置づけてきたシリアのラッカがクルド人勢力を主体とする部隊によって陥落したと NHK が伝えています。

 テロリストの拠点が失われた訳であり、「ISとの戦い」については治安維持が重要になるでしょう。それとは別に、「最大の功労者であるクルド人勢力への処遇をどうするか」が最重要課題になったため、こちらへの対応を不可欠となっています。

 

 シリア北部のラッカで軍事作戦を続けてきたクルド人勢力を主体とする「シリア民主軍」は17日、ISの戦闘員が最後まで抵抗を続けていたラッカ中心部にある病院とスタジアムを制圧し、「ISのテロリストからラッカを完全に解放した」と発表しました。

 「シリア民主軍」はこのあと地雷の除去などを終えたうえで、記者会見を開いて正式に勝利を宣言することにしています。

 また、シリア民主軍を支援しているアメリカ主導の有志連合は、17日、引き続き市内に潜伏しているおそれがあるISの戦闘員の掃討にあたると強調しました。

 

 四面楚歌となっていたISですが、クルド人勢力を主体とする部隊の前に首都を名乗ったラッカが陥落し、拠点が消滅することとなりました。

 ISが制圧する主要都市がなくなった訳ですから、今後は「対ゲリラの掃討作戦」に比重が移ることになるでしょう。ただ、「クルド人の処遇」という別の問題が浮上していることも事実です。

 

1:お払い箱にはできない規模のクルド人勢力

 IS勢力を壊滅にまで追い込んだのは「クルド人を主体とする勢力」です。その勢力圏を見れば、簡単に “お払い箱” にはできないことは明らかと言えるでしょう。

画像:シリアとイラクの勢力図

 シリアとイラクの北部地帯はクルド人勢力が抑えています。ここを政府軍にタダで手渡すとは考えづらく、それなりの見返りを提示する必要があります。

 もし、下手にケチるようだと権力の空白が生じ、ISのようなテロ勢力を再び野放しにする可能性があることに留意しなければなりません。

 

2:すでにキルクークで緊張が起きている

 クルド人勢力との関係ですが、イラク政府との間で緊張が走っています。その理由はイラク北部にある油田地帯の主要都市キルクークについてです。

 産油国は資源的なアドバンテージを持つことになりますので、どの国も資源の確保に躍起になっています。クルド人にとっては『自治州』から『独立国』に格上げを狙う上で、油田は絶対に確保したいところです。

 逆に、イラク政府にとって石油は絶対に確保しなければならない資源なのですから、政府軍を送り込んででも守ろうとしているのです。

 

3:仲介役に名乗りをあげる国がおらず、状況は極めて流動的

 「クルド人の処遇」が次の火種となる可能性が高いのですが、仲介役に名乗りをあげるような大国が存在せず、状況は流動的と言えるでしょう。

  • クルド自治政府(イラク)
    • トルコとは良好な関係
    • トルコ政府はトルコ国内やシリア国内のクルド人勢力とは敵対関係
    • クルド人問題を抱える国の印象は良くない
  • イラク政府
    • 国連加盟国
    • シーア派が主権を得たため、イランの影響が強くなっている

 国連加盟国であるイラク政府が国際社会からのサポートを得やすい立場にあると言えるでしょう。ただ、問題点がない訳ではありません。

 最大の懸念点は「ISに攻め込まれた際に部隊があっけなく瓦解したこと」です。戦う任務を放棄して逃げたのですから、クルド人部隊が本気で攻め込んできた場合に同じことが起きる可能性があります。ISとの戦闘をクルド人部隊に丸投げしている状況ですから、ここは大きな懸念材料と言えるでしょう。

 どういった形で落ち着くことになるのか、状況を継続的に観察し続ける必要があると言えるのではないでしょうか。