日馬富士の暴行事件は日本相撲協会の対応にも問題がある
横綱・日馬富士(伊勢ヶ濱部屋)が平幕・貴ノ岩(貴乃花部屋)を暴行していた問題が発覚し、大きな話題となっています。
NHK によりますと、処分は九州場所が終了した後に行われる予定とのことですが、処分を下す日本相撲協会の対応にも問題があると言えるでしょう。なぜなら、事件そのものを隠蔽しようとする動きが見られたからです。
■ 時系列
今回、日馬富士が起こした事件の時系列は以下のとおりです。
10月25日夜 〜26日未明 |
巡業で訪れていた鳥取市で暴行事件が発生 |
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10月26日 (巡業:鳥取市) |
鳥取市で巡業が行われる。貴ノ岩は参加。(巡業部長は貴乃花親方) |
10月29日 (巡業:福山市) |
貴ノ岩側(=貴乃花親方)が鳥取県警に被害届を提出。この日が秋巡業の最終日 |
11月2日 | 貴乃花部屋の一行(貴乃花親方、貴景勝、貴ノ岩)が九州場所の宿舎を置く福岡県田川市の市役所を表敬訪問 |
11月3日 | 前日に鳥取県警から問い合わせを受けた日本相撲協会が電話で伊勢ヶ濱(日馬富士の親方)および貴乃花(貴ノ岩の親方)から聞き取りを実施 |
11月5日 〜9日 |
貴ノ岩が体調不良を訴え、福岡市内の病院に入院 |
11月10日 | 番付編成会議の時点で貴ノ岩の休場が発表 |
11月13日 (九州場所2日目) |
日本相撲協会が休場している貴ノ岩の診断書を公表 |
11月14日 (九州場所3日目) |
日馬富士による暴行疑惑が報じられる |
それでは角界に衝撃を与えることとなった事件について、問題点などを整理しておくことにしましょう。
■ 当事者などの対応についての寸評
1:貴乃花親方の動きは至極当然のもの
被害を受けた貴ノ岩の親方である貴乃花親方の動きは妥当なものと言えるでしょう。暴行・傷害事件である訳ですから、内々で済ませる必要性がないからです。
「なぜ、相撲協会に連絡しなかったのか」と主張する声もあるでしょうが、日本国内で『捜査権』を持つ唯一の組織が警察なのです。コンプライアンス案件ではなく、刑事事件なのですから警察に被害届を提出することは当然の判断です。
被害届を提出した翌日に当たる30日(月)以降に「所属力士が暴行を受け、被害届を提出した」との一報を相撲協会に入れていれば、対応は完璧だったと言えるはずです。
2:貴乃花親方に「被害届を取り下げる気はない」と言わせたのは誰か?
日本相撲協会は貴乃花親方から「被害届を取り下げる気はない」と述べられたことを明らかにしています。ここで注目すべきは「この発言が出た理由」でしょう。
なぜなら、被害届を取り下げ、内々に終わらせて欲しいと考える人物がいたと考えられるからです。
日本相撲協会や伊勢ヶ濱部屋にはそうなって欲しい動機があります。聞き取りの際に「穏便に済ませることはできませんか」と尋ねた可能性もあるでしょう。
ただ、被害届を取り下げると、内々で終わらせる(=隠蔽する)ということになるのです。こうした隠蔽体質があることは大きな問題であり、この点は暴行問題と合わせて取り組む必要があることなのです。
3:貴ノ岩が表敬訪問をしていた点について
暴行を受けた貴ノ岩が表敬訪問を行ったことで「負傷の程度」を疑問視する声が一部であるようですが、不自然な点はないと言えます。
貴ノ岩は「安静にする必要があった」という状態だったからです。巡業や表敬訪問が力士の身体に与える負荷は本場所と比べて低いものです。特に、表敬訪問の場で激しい運動をすることはない訳ですから、関取である貴ノ岩が表敬訪問を行ったことは問題とは言えないのです。
ただ、本場所が近づくに連れて稽古の強度が上がります。貴ノ岩の場合は「稽古の強度を九州場所に向けて上げたところ、頭蓋底骨折をしていた部分から髄液漏がひどくなり、体調不良を訴えて入院となった」というシナリオが現時点では有力です。
手術が必要だったのではなく、安静にしていれば回復が可能な症状だったのですから疑問が抱かれるような要素はないと言えるでしょう。
4:「貴ノ岩が初日から休場する」と知った後の日本相撲協会の対応は適切だったのか
11月2日の時点で「貴ノ岩が日馬富士からの暴行を受けた被害届が出ていること」を知り、同月10日に「貴ノ岩が初日から休場すること」を知った日本相撲協会の対応は適切だったと言えるでしょうか。
貴乃花親方に「貴ノ岩の休場と被害届に関係はあるのか」と問い合わせている必要があったからです。
当事者サイドにいる貴乃花親方が歯切れの悪い回答をしていたなら、それをオープンにすることで「相撲協会側は最大限の対応はした」と主張することが可能です。
「貴乃花部屋(の所属力士)と伊勢ヶ濱部屋(の所属力士)の問題」なのですから、協会が積極的に火中に飛び込む必要はありません。報告がなければ動けない訳ですし、問題が起きたことが報告された時点で規律委員会を立ち上げた上、適切な処分を後日下せば良い立場に協会はいるのです。
しかし、情報公開を適切に行い、動きが鈍かった事実を否定することは難しいでしょう。“悪しき隠蔽体質” が再び顔を見せた状況になってしまっています。
暴行の現場にいた他の力士や所属部屋の親方などの経路から報告が上がっていた形跡がないのですから、これらの報告ルートを構築することが再発防止策の1つとなるでしょう。問題が収束するのはかなりの時間を要することになると言えるのではないでしょうか。