日本財団の「家庭の経済格差と子どもの能力格差の関係分析」には “見落とし” があるのではないか

 『日本財団』が「家庭の経済格差と子どもの能力格差の関係分析」の速報版(PDF)を公開しています。

 「貧困状態の子どもの学力は10歳を境に急激に低下する」、「逆転は年齢が上がるほど困難になる」と分析結果を発表していますが、“見落とし” があると思われます。その点にも考慮しておく必要があると言えるでしょう。

 

1:『日本財団』が示したデータ

 『日本財団』が「貧困状態の子どもの学力は10歳を境に急激に低下する」とした根拠を示したグラフは以下のものです。

画像:『生活保護受給世帯』と『経済的に困窮していない世帯』の偏差値推移

 小学2年生(8歳)の時点では家庭の経済状況による差はありません。それが、学年が上がると差が付き始め、小学4年生(10歳)で偏差値で5ポイント以上の差が付けられるのです。

 ただ、「学力低下」と結論づけるには注意が必要です。なぜなら、小学4年生の段階では大きな差が生じる原因と目されるデータが示されていないからです。

画像:経済状況別の非認知能力

 「つらいことや困ったことを学校の先生に相談できる」と答えた生徒の数値は同じ。「1日の勉強時間の目安を決めている」と答えた生徒は生活保護を受給している家庭の方が多いのです。

 『1日の勉強時間を決め、“困ったこと” は学校の先生に相談できる立場にある生徒の学力』の平均値が『そうではない生徒の学力』の平均値を大きく下回ることはないと言えるでしょう。

 

 

2:“中学受験をする生徒” を除いたデータで比較する必要があるのではないか

 『日本財団』は「生活保護を受給しているかどうか」という点でのみ、データを比較しています。しかし、これでは実態を掴むことはできないでしょう。

 その理由は「学力のある生徒が中学受験のために勉強に本腰を入れる」というケースが考えられるからです。

 子供が通う小学校が荒れていれば、親は中学受験を考えることでしょう。また、灘中・灘高に合格する可能性がある生徒の親も中学受験に本腰を入れることが予想されます。

  1. 中学受験を考えている生徒
    • 生活保護を受給している世帯の子供
    • 経済的に困窮していない世帯の子供
  2. 中学受験を考えていない生徒
    • 生活保護を受給している世帯の子供
    • 経済的に困窮していない世帯の子供

 したがって、上記のような “場合分け” を行った上で、比較を行うことが問題の本質を把握するには欠かせないと言えるでしょう。

 生活保護受給世帯の生徒で中学受験をするケースは国立大の付属中学など限定的と思われます。多くは私立中学受験組ですから、ここを外した「中学受験を考えていない生徒」に対象を絞って比較を行うべきなのです。

 

3:“積み重ね” が要求される勉強で、年齢とともに逆転が難しくなるのは当たり前

 前年度に偏差値45未満だった生徒が翌年には偏差値45超に “逆転” できる割合を『日本財団』はグラフで示しています。

画像:偏差値45以下の生徒が逆転する割合

 ここからは年々ハードルが高くなっていることが読み取れますが、これは自然なことと言えるでしょう。学習したことを翌年以降に利用するからです。九九をサボれば、小学3年生以降の算数で苦労します。また、漢字の学習を疎かにすれば、教科書に書かれた漢字が読めず、内容を理解できないということが生じるのです。

 基礎の部分がない訳ですから、小手先の技術で誤魔化すことはできません。挽回するには「学校で習うこと+アルファ」が必須です。しかし、教員は重労働が問題となっている訳ですから、教師に “さらなる仕事” を押し付けることは選択肢としてありえません。

 家庭教師や塾が有効な挽回策なのですが、子供が勉強をサボったツケを「生活保護受給世帯だから」という理由で行政が負担することは不公平です。「生徒の学力」を挽回する訳ですから、1番は「生徒自身が努力を継続することに価値を見出すか」であり、環境は二の次と言えるでしょう。

 

 学力に個人差が生じることは当たり前です。生活保護受給世帯の中でも差は生じているのです。

 そのため、「優秀な生徒」は家庭が生活保護を受給しているかに関係なく、有力校に安価な学費で進学できるチャンスが与えられるべきです。「習熟度は低いが、意欲が高い生徒」も同様に巻き返しのチャンスが与えられるべきと言えるでしょう。

 貧困層にバラマキ政策を行おうとする活動にはNOを宣言する必要があると言えるのではないでしょうか。