受信料制度は合憲との NHK 寄りの判断が出るも、受信契約の成立は判決確定後との痛みを伴う

 「NHK の受信料制度は契約の自由に反する」と最高裁まで争われた裁判が結審しました。

 当事者である NHK は「契約義務づけ規定は合憲」と報じ、多くの争点で NHK 側の主張が認められたと報じています。ただ、契約成立時の判断は『NHK 側の主張内容』が退けられており、この点は NHK にとって痛みになる可能性があります。

 

 放送法の規定が憲法に違反するかどうかについて、「受信料の仕組みは憲法の保障する表現の自由のもとで国民の知る権利を充たすために採用された制度で、その目的にかなう合理的なものと解釈され、立法の裁量の範囲内にある」として、最高裁として初めて憲法に違反しないという判断を示しました。

 また、受信契約に応じない人に対しては、NHKが契約の承諾を求める裁判を起こして判決が確定した時に契約が成立し、支払いの義務はテレビなどを設置した時までさかのぼって生じるという判断も示しました。

 

 テレビで NHK しか見れるチャンネルがない状態である放送法の規定が現代でも認められたという点は大きなニュースでしょう。

 しかし、多チャンネル化が進み、BS/CS でもテレビを見ることが可能となった上、インターネット経由でも映像コンテンツは楽しめる時代なのです。受信料制度で『皆様の NHK』という古びた価値観を振りかざしていることが反発を招く結果となっているのです。

 

1:主要な争点

 NHK の受信料制度が問われた裁判の主な争点と判決は以下のとおりです。

  1. 放送法64条(=受信料制度)は憲法に違反するか
    → 妥当な方法 - NHK:〇
  2. 受信契約の成立時期
    → 訴訟で NHK の主張が認める判決が確定した時 - NHK:×
  3. 支払い義務の発生起点
    → 受信機器が設置された時 - NHK:〇
  4. 支払い義務の時効
    → 受信料契約が締結された日から5年 - NHK:〇

 最高裁が下した判決は『NHK の主張内容』がほぼ認められる内容でした。ただ、受信契約の成立時期は NHK 側の要求は完全に退けられています。

 NHK は受信契約の成立時期について「NHK が契約を申し入れた時」と主張していたのですが、「受信機器設置者との個別の訴訟で NHK の主張が認められた判決が確定した時が契約成立時期」と下されたのです。

 取り立て訴訟は費用対効果が “割に合わない” ことが白日の下にさらされたため、劇的な変化は起きることは考えにくいと言えるでしょう。

 

2:B-CAS カードを使った有料スクランブル化に舵を切るべきだ

 「見てもいない番組」や「見ようとも思わない番組」に対して受信料を強制的に支払う制度は批判が広がって当然です。

 どれだけ、『皆様の NHK』と宣伝したところで逆効果になることは目に見えています。一部活動家などの「事実に基づかない主張内容」をアピールする場を提供している訳ですから、「受信料の支払い」に違和感を覚える人々が増えて当たり前なのです。

 現在の技術では B-CAS カードを利用することで、『受信料』から『視聴料』に制度を切り替えることが可能です。

 スカパーなどと同じ『有料スクランブル方法』を原則とし、19時のニュースなど「報道番組」としての顔を持つ番組はスクランブルを外せば良いのです。

 朝ドラや大相撲などは『視聴料』が必要な “有料コンテンツ” として日本市場だけでなく、世界市場に売り込むことができるコンテンツ制作に精を出す必要があると言えるでしょう。

 

3:有料スクランブル化で苦境が予想される教育テレビ(Eテレ)にも活路はある

 B-CAS カードを使った『NHK の有料スクランブル化』を本格的にすると、報道部門が稼ぎ頭となり、Eテレ(教育テレビ)部門は苦境にあえぐと予想されています。

 競争環境にそのまま放り出せば、そうなる可能性は大いにあります。しかし、Eテレには活路が残されていることを見落としてはなりません。それは「子育て世帯」です。

 子育て中に「Eテレ(教育テレビ)の番組がありがたい」と感じた人は多いことでしょう。これがEテレにとっての活路となるのです。具体的には政府が子育て世帯への支援策として「幼児以下の子供がいる子育て世帯に NHK の年間受信料分を給付する」との政策を打ち出すことです。

 この政策は “落とし所” としては一定の評価を得ることができると考えられます。

 NHK としては『受信料(視聴料)収入』を手にすることができます。子育て世帯は『乳幼児向けコンテンツ』を実質的に無料で視聴できますし、政府は『子育て世帯への支援策』を有権者にアピールできるからです。

 社会全体としては「子育て世帯の NHK 受信料を負担する」との痛みがありますが、衛星放送(BS)まで負担する訳ではないのですから、痛みは限定的です。また、『乳幼児向けコンテンツ』のみを B-CAS カードを使った有料スクランブルの対象外とする代わりに政府予算を投入するという選択肢もあるのです。

 

 つまり、NHK が優良コンテンツを作っており、その実力があるのであれば過度に悲観する必要はないのです。『皆様の NHK』という “八方美人” が技術の発達による時代の変化で通用しなくなっただけと言えるでしょう。

 受信料制度で過度に守られた “象牙の塔” にこもる姿勢から脱却しなければならない時代になったと言えるのではないでしょうか。