国際社会は「力による現状変更は認めない」と言うが、阻止行動に出ることは皆無に近い

 アメリカ・トランプ大統領が「エルサレムをイスラエルの首都と認めた」ことに対し、世界各国が批判的な反応を示しています。

 ただ、ほとんどの国が EU のように「国際的な合意を尊重する」というコメントに留めていることだ現状です。この現実を見据えた上で、国際社会での振る舞い方を考える必要があると言えるでしょう。

 

 イスラエルのネタニヤフ首相は11日、ベルギーのブリュッセルで開かれたEU外相会議に招かれ、各国外相と意見を交わしました。

 ネタニヤフ首相は会議を前に会見し、アメリカのトランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認めたことについて、「和平を阻害するどころか可能にするものだ。現実を認めることが和平の本質であり基礎だ」と述べ、ヨーロッパ各国もエルサレムを首都と認めるよう求めました。

 これに対して、EUのモゲリーニ上級代表は会議後の会見で、イスラエルと将来のパレスチナ国家の2国家共存の原則に基づく解決を支持するという、EU側の立場を伝えたことを明らかにしました。そのうえで、「エルサレムの地位が当事者間の直接交渉を通じて最終的に確定するまで国際的な合意を尊重する」と述べて、アメリカの動きには一切くみしない考えを改めて示しました。

 

 

1:「力を背景にした現状変更」に対し、国際社会は阻止行動に出ることはない

 残酷な現実ですが、ある国が「力を背景にした現状変更」を強行した場合、それを止めてくれる国際社会は存在しません。近年では皆無と言える状況になっています。

  • ロシアがクリミア半島を併合
  • ウクライナ東部での騒乱
  • 「エルサレムはイスラエルの首都」とアメリカが宣言

 これらの動きに対し、国際社会は「懸念を述べるコメント」を発表しましたが、阻止行動は起こしていません。「当事者同士で解決すべきこと」と距離を置くスタンスを維持しているのです。

 国際社会が行動を起こすことはまずない状況なのですから、力を持った国ほど現状を容易に変更することができてしまうという現実があるのです。

 

2:力のある第三国に味方として当事者意識を持たせられるかが鍵

 パレスチナ問題で浮き彫りとなったのは「イスラム教徒が一定数存在するヨーロッパの各国ですら、具体的な阻止行動に出ない」という現実です。

 アメリカ(トランプ大統領)の行動を追認していませんが、苦言を呈するまでに留まっています。「発言の撤回」を要求していない訳ですから、実質的に黙認することになるでしょう。

 ヨーロッパ各国の姿勢を日本は記憶に焼き付けておく必要があります。

 なぜなら、ヨーロッパ各国の国内に対する影響度が高いパレスチナ問題と距離を取ったのです。『中国の海洋進出』や『北朝鮮の核開発』など、ヨーロッパへの影響度の低い問題に対し、EU を始めとする国際社会が取り組む可能性はほぼゼロであることを前提にしておく必要があるのです。

 したがって、日本政府が採れる選択肢はおのずと限定されることになります。自国が当事者意識を持つことは当然ですが、力のある国家(アメリカなど)をどう巻き込むかが極めて重要になると言えるでしょう。

 

3:幻想の『国際社会』に頼りきっているようでは安全を維持することはできない

 安全保障の観点で、野党の政策が支持されない理由は現実的ではないからです。日本が採れる選択肢が限られる中で国益を守っている・守れる保証がない政策を掲げれば当然と言えるでしょう。

  1. 他国の「力を背景にした現状変更」を受け入れる
  2. 日本単独で安全保障を守る
    → 予算的に厳しい上、アメリカが敵に回る
  3. 日米同盟で安全保障を維持する

 野党が主張するの「1」か「2」です。1を主張する野党は「日本は他国に攻め入る可能性があるが、他国が日本に攻め入る可能性はない」と決め付けており、話になりません。中国が海洋進出を続ける中で、この論理は明らかに無理のある主張です。

 一見すると「2」が理想的に思えますが、予算面で非現実的です。また、単独行動を採るのであれば、「アメリカも仮想敵国になる」との前提で備える必要があります。要するに、「アメリカ、中国、ロシアの3ヵ国と睨み合って均衡を保つことが日本の平和には欠かせない」という状況になるのです。これはあまりに厳しいと言えるでしょう。

 

 まず、政府が考えることは「自国の国益を最優先にすること」です。他国のために自国予算を差し出す義務はない訳ですし、わざわざ火の粉をかぶりに行くような判断を下す必要はなのです。

 ですから、どの国もクリミア併合、ウクライナ騒乱、パレスチナ問題で懸念を表明するに留めているのです。

 自国だけで「力による現状変更」を止められないなら、現実に行使可能な力を持った国と歩調を合わせることが不可欠となります。阻止行動を起こさない限り、現状が力によって変えられてしまうのですから当事者意識を持つ仲間がどれだけいるかが鍵となるでしょう。

 日本政府がそうした現実的な対応を採ることができているのかを見た上で、メディアなどは論評する必要があると言えるのではないでしょうか。