出版取次を外したアマゾンは再販制度も崩し、その利益の多くを作者や消費者に還元して欲しい

 流通大手のアマゾンが出版取次を介さず、書籍を販売する流通経路に注力し始めていると日経新聞が伝えています。

 出版取次業に関わる企業にすれば、死活問題と言えるでしょう。しかし、これまで過剰なほどに守られてきたビジネス形態が時代に取り残されただけなのです。

 出版業界に同情的な声は極めて限定的になると思われます。

 

 アマゾンジャパン(東京・目黒)は書籍や雑誌を印刷会社から直接取り寄せる。文芸春秋など出版社に注文した雑誌などは出版取次会社を介さず、印刷工場から自社倉庫に仕入れる。アマゾンは取次大手の日本出版販売(日販)と在庫のない書籍については取引をすでに打ち切った。出版社だけでなく印刷会社との直接取引で、取次会社を前提とした書籍の流通構造が大きく変わりそうだ。

 

 書籍は販売価格が固定された商品ですが、作者が手にする額はそれほど大きくありません。著作権は 10% 前後ですから、1000円の書籍であれば100円が作者の取り分となるのです。

 残りは出版社・取次業者・運送業者・書籍販売店で取り合っていると言えるでしょう。

 今回、アマゾンは卸業務を担当する出版取次会社を外す形を採用しました。従来の流通構造に大きな風穴を開ける決断をした訳ですから、作者や消費者に利益が還元されるのであれば、支持する声は高まると考えられます。

 

1:書籍再販制度に守られてきた出版業界

 書籍や雑誌は定価販売が認められ、小売店が勝手に値下げをすることができない「再販制度」が容認されています。「なぜ、この制度が必要であるか」を一般社団法人・日本書籍出版協会は次のように説明しています。

 出版物には一般商品と著しく異なる特性があります。

  1. 個々の出版物が他にとってかわることのできない内容をもち、
  2. 種類がきわめて多く(現在流通している書籍は約60万点)、
  3. 新刊発行点数も膨大(新刊書籍だけで、年間約65、000点)、などです。

 このような特性をもつ出版物を読者の皆さんにお届けする最良の方法は、書店での陳列販売です。

 ツッコミどころとしては「書店での陳列販売が最良」と主張している点でしょう。なぜなら、この主張は2001年4月に掲載されたものであり、インターネットはそれほど世間に普及していない時代のものだからです。

 1人1台のスマホが当たり前となった現代ではネット上での宣伝が重要になり、ルールや顧客ニーズが大きく変更してしまっているのです。時代の変化に適応しない業界が落ち目になるのは当然と言えるでしょう。

 

2:作り手が途絶えれば、販売制度を維持したところで文化は途絶える

 出版業界は「文字・活字文化の振興や維持」を主張しています。その目的を達成するために、作り手(=作者)と販売制度のどちらがより重要なのかを考える必要があると言えるでしょう。

 これは作者の方が重要だと言い切れるはずです。

 コンテンツ制作が途絶えれば、流通構造がどれだけ素晴らしいものが存在したところで文化は終焉を迎えてしまいます。つまり、「良いコンテンツを制作すれば、自分が満足できる水準で食べていくことができる」と感じる作者が一定数以上で存在しなければ、業界全体がジリ貧になるのです。

 出版業界では「単行本を出版できれば、生活は楽になる。それまでの辛抱だ」とベテラン陣は主張するでしょう。しかし、インターネットの普及などで趣味・嗜好が多様化し、出版不況が発生。従来の成功モデルが若手作家に恩恵をもたらしにくくなっているのです。

 業界全体が分かれ道に差し掛かっているのですから、アマゾンの動きを上手く活かすことが生き残りを図る上で必須と言えるはずです。

 

3:アマゾンには書籍再販制度を破壊し、消費者と作者に還元して欲しい

 出版社にとって書籍再販制度は是が非でも維持したいでしょう。しかし、書店にとっては既にアマゾンの攻勢を受けた後ですから、恩恵は限定的なものに止まると予想されます。

 再販制度は消費者が高い書籍代を支払うことで、出版業界を食べさせるための補助金という意味合いがある訳ですから、撤廃することが時代の流れと言えるでしょう。

 「需要と供給によって、価格が決まらない関係」がまかり通る方がおかしいでしょう。人気で品薄になっていれば、増版分が届くまでの間は書店が “強気の価格設定” をする自由も生まれるのです。逆に不人気であれば、販売価格が下落するのは当然です。

 コンテンツ製作者や消費者に恩恵の少ない再販制度は役目を終えたと言えるでしょう。アマゾンが出版取次業者が得ていた利益を作者や消費者に還元する形で新しい流通経路を構築するのであれば、支持する人は増えると言えるのではないでしょうか。