無責任な立場から「自然災害に対する対策の重要性」を説くメディアは迷惑極まりない存在である

 福井県では1000台を超える車両が立ち往生するほどの豪雪に見舞われました。この件に対し、朝日新聞が2月8日付の社説で「日頃から備える意識を」との “上から目線” で対策の重要性を訴えています。

 これほど無責任な社説はないと言えるでしょう。非現実的な提案であり、取材活動を行う報道機関が主張する内容としてあまりに無責任すぎるからです。

 

 政府は自治体への除雪費用の支援を表明した。自治体の人手には限りがある。現地の声に耳を傾け、人とモノの援助にきめ細かく対応してほしい。

 今回も、最近の大雪でみられる車の立ち往生が起きた。

 (中略)

 北陸はもともと世界有数の豪雪地帯である。積雪への備えが十分だったか、一段落すれば今後のために検証が必要だ。

 

 「今後のために検証が必要」と主張するなら、朝日新聞が現時点で集めた情報を基に検証し、その結果を世間に向けて発表すれば良いのです。

 検証に必要なデータの多くは公開されているのです。福井県などの検証報告を待った上で、発表された内容に苦言を呈するという手法に頼るようではメディアの本文である「調査や報道を行うこと」が損なわれることになると言えるでしょう。

 

1:平年比6倍の積雪に見舞われた福井

 福井市の2月9日15時現在における積雪量は 118cm。平年値は 20cm ですから、平年比 590% (約6倍)の豪雪に見舞われたことになります。

画像:福井県内の積雪量(2018年2月9日15時現在)

 国道8号線で大規模な立ち往生が発生したのは福井市の北にある「坂井市」や石川県に近い「あわら市」です。これらの地域での積雪量を計測したデータを気象庁では観測していませんが、石川県・加賀菅谷では平年比 308% の積雪が記録されています。

 したがって、「坂井市」や「あわら市」での積雪は「平年比で 400% 前後だった可能性がある」と推測できるでしょう。

 

2:朝日新聞には「平年比からどれだけ余裕を持った除雪体制を構築しておくべきなのか」という問いへの自社の見解を示す責務がある

 朝日新聞は社説で「積雪への備えが十分だったか」を検証すべきと主張しています。そのため、「平年と比較した際に、どれだけの余裕を持った除雪体制が構築されているべきなのか」という点における自社の見解を示さなければなりません

 自社の見解(=平年比で〇%増までは除雪可能にしておくべき)を明示せず、「除雪が間に合わなかったこと」を批判するのは無責任なことです。

 平年とほぼ同量の積雪であったにもかかわらず除雪が間に合わなかったのなら、行政の認識は厳しく追求されるべきでしょう。しかし、今回は少なくとも平年の4倍を超える積雪だった訳です。この点から目を背けた批判は「的外れ」を言わざるを得ません。

 抽象的な表現で不満を述べることは誰にでもできます。具体的な数値を出して批判することができなければ、報道機関の看板は下すべきと言えるでしょう。

 

3:行政には平年比2倍の積雪量までは対処できる除雪能力を保持していて欲しい

 個人的には「平年比の2倍」まで対応できる除雪体制を保持して欲しいと思います。予算や雪の降り方によって数値は上下するでしょうが、目安にはなるでしょう。

 『平年』は「過去30年の平均」ですから、積雪量によって差が生じます。豪雪に見舞われた年は数値が大きくなり、暖冬だった場合は積雪が少なくなるためです。そのため、どれだけ余裕を持たすべきかは地域によって異なることになるのです。

 ただ、温暖化などの影響で気象条件は変わるという認識を持っておくことは重要です。

 「平年比の2倍」を基準に、過去5年の積雪量から目標とする数値を算出することが現実的と言えるでしょう。過去5年の積雪量の最大値と最小値を除外した3年分の平均値から、数値を算出すれば、ある程度の除雪体制を整えた上、予算も効率的に活用できると考えられるからです。

 最大値と最小値を除外する理由は「極端な豪雪当たり年や暖冬の年のデータに引っ張られることを避けるため」です。こうした提言をすることが報道機関の役割と言えるでしょう。

 

 もし、メディアが大雪に対する “今後のための検討” を主張するのであれば、視聴者や読者に対する啓蒙活動が最も効果的であることを自覚し、行動を起こすべきです。

 雪の少ない太平洋側の地域で積雪による影響が出るのは「雪に対する備えがほぼ皆無で、住民のほとんどが雪を甘く見ているから」です。厳しい寒さが予想される冬を迎える前に冬用タイヤの装着を呼びかけたり、「チェーンなどの雪対策をせず、外出することは控えるべき」との情報を繰り返し伝えるべきでしょう。

 トラブルが起きてくれた方が『報道価値』が上がるのでしょうが、被害を最小限するための報道を怠っていることと表裏一体であることを自覚し、視聴者や読者が本当に必要としている情報を伝えることができているかを見直す必要があると言えるのではないでしょうか。