「『ハーグ条約』に基づく返還命令の拒否は違法」との判断が最高裁で示されたことを人権派は評価すべきだ

 「ハーグ条約に基づく返還命令を拒否することは違法な拘束に該当するか」という争点で争われた裁判で最高裁が「原則違法」との判決を下したと NHK が報じています。

画像:『ハーグ条約』に基づく訴訟を報じるNHK

 『子供の権利』が長らく軽視され続けてきた日本でこのような判決が出たことは画期的と言えるでしょう。人権派こそ、今回の判決を歓迎すべきと言えるはずです。

 

 子どもを国外に連れ出した親がハーグ条約に基づく返還命令を拒否したことについて、最高裁判所は、日本の人身保護法の手続きで引き渡しを求めれば、返還の拒否は原則として違法になるという初めての判断を示しました。返還命令に実効性を持たせる判断として同様のケースに影響するものと見られます。

 ハーグ条約』には「一方の親が相手に無断で子どもを国外に連れ出した場合、元の居住国に戻すための手続き」などが定められています。

 日本では「妻が子供を連れて実家に帰る」という “強行手段” が長らく容認されていますが、この行為は誘拐(=未成年者略取)と大差はありません。この矛盾点が『ハーグ条約』で一部是正される流れが出来つつあると言えるでしょう。

 

1:最高裁が判決を下したケースでの時系列

 今回、最高裁が『ハーグ条約』に基づき提訴された人身保護請求裁判における時系列は下表のとおりです。

表:『ハーグ条約』に基づく人身保護請求裁判の時系列
2013年 第183回通常国会で『ハーグ条約』の締結が承認・成立
2014年 『ハーグ条約』が発効(4月1日付)
2016年 アメリカ国内で生活する日本国籍の母親が子供を連れ、アメリカ国籍の父親の同意を得ていない状態で日本に帰国
父親は『返還の申し立て』をするも母親は応じず。『強制執行』に対しても、母親は拒否・抵抗
→ 父親は人身保護請求の裁判を提訴
2017年11月 人身保護請求裁判(2審制)の1審・名古屋高裁金沢支部は請求を退ける
2018年3月 最高裁(2審)が1審判決を破棄。名古屋高裁金沢支部に差戻す

 アメリカ国内で生活していた日本人女性が夫であるアメリカ人男性に無断で夫婦の子供を連れて日本に帰国したことが発端です。このケースで『ハーグ条約』に基づく返還要求が認められないことの方が異常だと言えるでしょう。

 『ハーグ条約』に書かれた規約内容に抵触する行為をこの日本人女性はしていたからです。

 

2:問題を起こした日本人女性はどう対処すれば良かったのか

 “無断で連れ去る行為” が『ハーグ条約』に抵触する訳です。逆に言えば、「無断でなければ、『ハーグ条約』が存在しても元の居住国に連れ戻すことはできない」ということを意味しているのです。

 つまり、今回の日本人女性はアメリカで離婚調停を起こしておく必要がありました。

 もし、夫であるアメリカ人男性に “落ち度” があるなら、子供の親権は日本人女性が得ていたはずです。また、男性から暴力的な言動などを受けていれば、DV と認定されますし、離婚調停で女性側の要求が大きく認められることになっていたでしょう。

 そうした『正規の手続き』を踏まえず、連れ去りという “強行手段” に出れば国際問題にまで発展することになるのです。また、強行手段に出た日本人(主に女性)を批判せずに黙認する訳ですから、「人権に対する意識が軽薄な国」との誤解を招く原因になってしまうのです。

 

3:「自らの意志で家出をする少年・少女をどう保護するのか」という社会問題にも目を向けるべき

 『ハーグ条約』では「一方の親の身勝手な理由」で子供を居住国から連れ去ることを禁止しています。これは「子供の利益を守ること(= 悪影響から守ること)」が大きな理由です。

 日本国内でも、自らの意志で家出をする少年・少女がいます。理由は多種多様で、犯罪に巻き込まれたケースもあるでしょう。しかし、“毒親” から逃げた少年・少女を保護した成人は未成年者略の容疑で罪に問われてしまうことが現状なのです。

 「子供の利益を守ること(= 悪影響から守ること)」で『ハーグ条約』が効力を発揮するなら、国内での類似ケースについてもシェルターや法的プロセスの啓蒙活動を行うべきと言えるでしょう。

 人権を重視して活動するリベラルこそ、本件に対して積極的に情報を発信していく必要があると言えるのではないでしょうか。