世界で通用しなかった「自分たちのサッカー」に “先祖帰り” することを選択した日本代表

 日本サッカー協会は「4月7日付でハリルホジッチ監督との契約を解除した」と発表いたしました。

 W杯直前に監督を解任すること自体が異例ですし、解任の理由も協会側の身勝手なものです。限界が露呈済みの「自分たちのサッカー」に “先祖帰り” する訳ですから、代表チームが弱体化することは確実と言えるでしょう。

 

ブラジルW杯(2014年)のザック・ジャパン

 騒動の原因は「 “ボールを保持し、パスをつなぐスタイル” を一部の選手(とスポンサー)が強く支持している」ことでしょう。

 ただ、ザッケローニ監督が率いていた日本代表が大会前に掲げたコンセプトと実際の試合内容は思い出させなければなりません。なぜなら、完全に限界を露呈していたからです。

  • 「パスをつなぐポゼッションスタイル」を志向
  • 「高さのオプション(=ハーフナーの招集)を用意しておくべき」との指摘に対し、不要と宣言
  • 「自分たちのスタイル」でW杯優勝すると大会前に豪語
  • 相手のプレスにビルドアップミスを連発
    → ショートカウンターの餌食に
  • 劣勢で迎えた試合終盤に DF 吉田を前線に上げてパワープレー
    → ザック体制下で1度も練習したことのない形
  • 1分2敗(グループ最下位)で敗退

 「ブラジルW杯後に手のひらを返した」と批判する人もいますが、上記の出来事があったのです。少なくとも、選手たちが言う「自分たちのスタイル」とは何かという点で追求されることは当然のことと言えるでしょう。

 

4年前に警鐘を鳴らしていた内田篤人

 サッカー日本代表が抱える問題は4年前に内田篤人選手がコメントしており、雑誌『number』に掲載されています。

 監督は『今まで通りにやっていこう』と一番言っていた。でも、選手がそれをできなかったということを強く感じています。自分たちのサッカーをできれば、そりゃあ勝てます。でも相手のレベルが高いからできない。ボールも持てないし、向こうには一発を持っている選手もいるし。まあ、これが地力じゃないですか?自分たちのサッカーができないなかでもどうやって勝つかが大事だと思います。

 『自分たちのサッカー』は相手のレベルが高いとできない。その状況でどうやって勝つのか」という指摘にすべてが集約されています。

 日本のレベルで『自分たちのサッカー』をすると、W杯に出場できる実力があるチームに “返り討ち” にされる可能性が高いのです。ビッグクラブに顔を売りたい攻撃ポジションの選手以外はメリットがないスタイルと言えるでしょう。

 

「プレスの強度が極端に低いアジアでのパスサッカーは世界で通用しない」という現実

 フィジカル的にピークを迎えていた20代後半でブラジルW杯を迎えた本田・香川ら主力選手を要した日本代表の成績は散々なものでした。

 その理由は「W杯出場国(や日本より実力のある欧州予選敗退国)のプレス強度がアジアとは比べものにならないほどレベルが高いから」という極めて単純なものです。

 ヨーロッパで活躍している日本人選手は “実力者のチームメイト” がいるため、相手のマークが分散したことで輝いているケースがほとんどです。「チームの攻撃を担う最重要選手」と優先的にマークされた際に試合からほとんど消える訳ですから、対処は難しくないと言えるでしょう。

 ボールを要求する選手が相手のプレスの餌食となり、逆カウンターのきっかけを与えているのです。このようなシーンを何度も作れば、『自分たちのサッカー』とやらがバカにされるのは当然の結果と言えるはずです。

 

ハリルホジッチ監督解任による悪影響も無視できない

 ハリル監督は日本代表がアジア予選で1度も勝ったことがなかったオーストラリアに勝利しました。ポゼッションスタイルの相手を下す術を持った監督であり、損害が大きくなるのはこれからが本番です。

 「W杯の出場権を獲得した」にもかかわらず、「親善試合の結果」を理由に解任されるのです。

 しかも、監督のスタイルを気に入らない選手たちの “要望” が受け入れられる結果となりました。選手と監督が対立したのであれば、監督を取らなければなりません。しかし、日本サッカー協会は選手を取りました。

 これにより、「有望な外国人監督の招聘」は困難になったと言えるでしょう。ピッチ上の結果よりも、“日本人スター選手” のご機嫌取りが優先されている実態が浮き彫りになったからです。

 「ボールを奪った後にパスコースができている状態」を作るための走力は不可欠ですし、「ボールを奪われた際のネガティブトランジション」など切り替えの速さという点で日本と世界の差は開き続ける一方です。

 

 勘違いをした選手たちの意向を尊重すれば、次回大会ではアジア予選突破すら危ういでしょう。しかし、サッカー協会がそれを容認するなら、それも “アリ” です。

 協会は「勝つサッカー」よりも、「プレーする選手が満足するサッカー」を取りました。ガラパゴスに陥っている状況で、選手のエゴを優先する決断を下したのです。そのツケはW杯本大会以降に現れることでしょう。

 選手やスポンサーのご機嫌取りで本末転倒になれば元も子もないことを自覚する必要があると言えるのではないでしょうか。