武田薬品のシャイアー買収提案は『投資企業』としての側面を強めるのではないか

 NHK によりますと、武田薬品工業がアイルランドの製薬会社シャイアーを約7兆円で買収するために交渉を行っているとのことです。

 実現すれば巨額買収となりますが、市場(= 株価)は否定的です。これは「本業が盤石」とは断言できない経営状況である中、負債を積み重ねることを株主が嫌っているからと言えるでしょう。

 

 製薬業界で国内最大手の「武田薬品工業」は、アイルランドの製薬会社に対する買収の交渉について、買収金額をおよそ7兆円に増やしたと明らかにしました。相手側も前向きに検討する意向を示し、両社は合意に向けて詰めの交渉を進めることになりました。

 (中略)

 シャイアーは血液や免疫に関わる患者の数が少ない希少疾患の薬に強みを持ち、アメリカを中心に100か国以上で薬を販売し、武田薬品としては買収によってがんや消化器系の病気の治療薬の分野で事業基盤を強化したい狙いがあります。

 製薬会社の収益源は『ブロックバスター』と呼ばれる新薬です。巨額の開発費をつぎ込んで開発された新薬がヒットすれば、会社に “莫大な利益” をもたらす『ブロックバスター』となります。

 ただ、利益が保証されているのは「特許が有効な期間だけ」です。そのため、製薬会社は「常に『ブロックバスター』を作り続けなければならない」という “自転車操業” に近い形となっているのです。

 

長谷川閑史&クリストフ・ウェバー体制の “焦り” が見え隠れする巨額の買収提案

 武田薬品がシャイアーに巨額の買収提案をした理由は「現体制の焦り」が大きいと言えるでしょう。なぜなら、現在の経営陣には「自分たちが進めてきた経営方針で結果を出さなければならない」という “焦り” があるからです。

 武田薬品工業は武田國男会長時代に「多角化しすぎた経営」を集約しました。当時の経営状況から下された判断は「間違い」と言えるものではなく、武田國男氏の後任者となった長谷川閑史氏(現・相談役)が掲げた方向性こそ、精査されるべき対象と言えるでしょう。

 長谷川氏は「中国市場をターゲット」に巨額の資金を費やしましたが、主力市場になったとは言えません。また、日本国内市場の営業で溜め込んだキャッシュを使い、ナイコメッドを2011年に約1兆円で買収するも、「経営への効果が出ている」とは言えない状況なのです。

 ちなみに、現在のトップを務めるクリストフ・ウェバー氏は長谷川会長時代の2013年に次期 CEO として招かれており、経営責任を責められる立場にあるのです。

 

2014年の株主総会で「外国人幹部多用・優遇」を懸念された現在の経営陣

 武田薬品は2014年の株主総会で武田國男氏などから「外国人幹部多用・優遇のダイバーシティ経営方針」に対し、疑義を呈されてました。

 これを現在の経営陣(長谷川閑史&クリストフ・ウェバー体制)は決議で乗り切りました。「外国人幹部多用・優遇およびグローバル化で結果を出す」と宣言したに等しいと言えるでしょう。

 ところが、「グローバル化を狙った買収劇で売上高は上乗せできたものの、利益は減少する」という結果を招き、“負のスパイラル” が始まり出したのです。

 買収をする狙いは「利益高をアップさせること」です。なぜなら、赤字企業を買収しても売上高は増えるからです。“買収を決断した経営者” が利益高を増やせなかったのであれば、経営責任が追求されて当然なのです。

 

幹部起用で外国人が優遇されれば、日本国内での創薬能力が失われる

 製薬会社で “アンタッチャブル” とすべきは「創薬能力」です。どの企業も『ブロックバスター』や『ミニ・ブロックバスター』が利益を上げる源泉なのですから、『創薬』に関わる人材は確保し続けなければなりません

 しかし、武田薬品は「グローバル化」を掲げ、外国人幹部多用・優遇に舵を切りました。

 この際、“英語ができない(または苦手な)日本人研究者” の処遇次第で、一気に「創薬能力」を失う事態となります。「創薬に関する知識」より「外国人上司との英語でのコミュニケーション能力」が優遇されれば、結果は火を見るよりも明らかです。

 『ブロックバスター』や『ミニ・ブロックバスター』を生み出すための「環境」は研究所や研究員の “お国柄” が尊重されるべきであり、「研究に必要な設備の購入」はグローバル化によるコスト削減を図るという線引きが重要なのです。

 

 おそらく、武田薬品は現・経営陣が掲げた『グローバル戦略』を推進したところ、日本国内の『創薬能力』を失ったのでしょう。回復させようにも、「英語がでいない」との理由で実績のある研究員を切ってしまっており、取り返しのつかない状況に陥ってると思われます。

 その失態を取り戻すために、“開発力のある” とされる国外の製薬会社を丸ごと買収するも、肝心の利益高が上がらず。追い詰められた現・経営陣が「巨額買収での大逆転を狙って賭けに出た」と言えるでしょう。

 ギャンブラーが「うるさいっ!次で取り返す!」と叫ぶことを彷彿させます。巨額報酬を手にしている経営陣が「計算づくの巨額買収」であることを証明することができるのかに注目と言えるのではないでしょうか。