高さ60mの野村ダムが越堤・決壊するリスクよりも、「住民への伝達徹底に尽力せよ」と難癖を付ける朝日新聞

 朝日新聞が愛媛県西予市野村町での浸水で5人が死亡した件に対し、「避難指示は住民に伝わっていたのか」との主張を行っています。

画像:“報道機関としての役目”を棚に上げて批判を行う朝日新聞

 これは被害を最小限に食い止める仕事を行った国交省を “吊るし上げる” 以外の何物でもありません。なぜなら、朝日新聞の主張に沿った対応をしていた場合、野村町そのものがダムの決壊によって消滅していた可能性が現実にあったからです。

 

 多目的の野村ダム(高さ60メートル、長さ300メートル)の放流量が急増していた。

 国土交通省四国地方整備局によると、午前6時20分にダムは満水になりかけていた。当時、毎秒439立方メートルを放流していたが、上流から1279立方メートルが流れ込み、あふれる危険が高まっていた。放流量を増やし、午前7時50分には4倍の1797立方メートルに達した。

 (中略)

 今回の対応について、整備局河川管理課は「河川法に定められた操作規則に基づいて対応した」と説明する。国交省によると、豪雨に備えて3日前の4日からダムの水位を下げ、雨水を貯留できる量を350万立方メートルから600万立方メートルまで増やした。豪雨が降り始めた後は満水近くになるまで放流量を抑えたという。担当者は「雨が強まってからも河川の水位を上げないことで、住民が避難する時間を稼げた」と説明する。

 

ダムは「 “一定の水量” を “任意の期間” において貯蔵することが可能な施設」である

 まず、ダム施設の「できること」と「できないこと」を整理することは不可欠です。

 ダムは「一定の水量」を「任意の期間」において、貯蔵する施設です。『貯水率』が公開されているように、貯めておくことができる量には限度があるのです。

 貯水率は 100% で上限で、満水までの余剰分は 10% ほどでしょう。ニュースで 200% 近くの数値が取り上げられる『乗車率』とは「全くの別物」という認識を持たなければなりません。

 貯水率が 100% を超えた状態でダムへの流入がストップしないのであれば、ダム決壊という “最悪の事態” を避けるためには流入量分を流出することが不可避です。そのため、専門家は「ダムは避難の時間を稼ぐための施設」との見解を示しているのです。

 

野村ダムの『貯水率』を外したグラフを使用する朝日新聞

 朝日新聞は野村ダムでの放水を扱った記事で「流入量と放出量のグラフ」を使用していますが、『貯水率』は外されています。データは公開されていますので、意図的と言えるでしょう。

画像:野村ダムの流入・放出量と貯水率

 野村ダムの貯水率は7月7日午前5時20分に 100% に達しました。

 前日の貯水率は 70% ほどを推移していたのですが、これは放出量(約 300㎥/s)を下回る流入量だったからに過ぎません。7日の午前2時過ぎから流入量が 300㎥/s 超となると、貯水率は午前3時に 75% を記録。

 流入量はその後も増え続け、午前6時20分頃にダムが満水に近づいたことで『河川法』に基づく操作手順(流入量と同量を放出)を実行したのです。その点は認識しなければならない点なのです。

 

貯水率が 100% に達する前の午前5時過ぎに避難指示が出ていれば十分であり、報道の『伝達責任』を問うべきだ

 もし、『流入量の全量放水』を認めないのであれば、野村ダム(高さ60m)は越堤・決壊していたことでしょう。この場合、西予市野村町の市街地に 60m 弱の津波が襲来していたはずです。

 その方(野村ダムが決壊する方)が良かったのでしょうか。

 午前5時過ぎ(貯水率 95%)に「ダム放水で河川水位上昇による避難指示」が出ていれば、十分でしょう。なぜなら、その時点では全量放水はまだ始まっていなかったからです。

 800㎥/s の流入量があった午前5時に「避難指示」が出され、午前6時過ぎの流入量は 1600㎥/s にまで倍増しているのです。その状況下で「貯水率 100% のダムが全量放水を1時間近くも待っていた」という現実を評価しなければなりません。

 むしろ、切迫した事態を伝える役割を軽視し、後出しで難癖を付ける報道機関の責任こそ、厳しく追求されるべきものなのです。

 

 猛省すべきは国交省・四国地方整備局ではなく、「避難指示の報道」というメディアの責務を放置していたマスコミ自身でしょう。本来の役目を怠ったことによる責任を行政に転嫁する姿勢はあり得ないと言わざるを得ないのではないでしょうか。