日欧 EPA 署名式が東京で完了、互いに大きなビジネスチャンスを手にする結果となる

 日本と EU が経済連携協定(= EPA)の署名式を東京の首相官邸で行ったと NHK が報じています。

画像:EPAに署名する安倍首相(NHKより)

 当初はベルギー・ブリュッセルで行う予定でしたが、西日本各地を襲った豪雨の関係でキャンセル。EU トゥスク大統領が「予定1週間後の東京で署名」を提案し、17日に署名式を行うことになったとの経緯があります。

 予期せぬトラブルで事務方が直前調整を強いられましたが、無事に署名できたことは大きいと言えるでしょう。なぜなら、日本および EU にとって、大きなビジネスチャンスを手にすることができるからです。

 

 安倍総理大臣とEU=ヨーロッパ連合のトゥスク大統領らは、日本とEUの定期首脳協議のあと共同声明を発表し、今回のEPA=経済連携協定の署名は、自由貿易を力強く前進させていくもので、保護主義に対抗する力強いメッセージだと強調しています。

 それによりますと、日本とEUのEPA=経済連携協定の署名について、「歴史的な一歩であり、この協定は自由貿易の旗を高く掲げ続け、自由貿易を力強く前進させていくとの日本とEUの揺るぎない政治的意思を世界に対して示すものだ」としています。

 「何のために渡欧するのか分からない」と野党の一部から批判の声が出ていましたが、EU のトゥスク大統領が代替日程を即座に言及したことから、重要度を認識できていなければなりません。

 『保護貿易主義』はブロック経済を招き、先の大戦の原因(の1つ)になったのです。そうした反省をも踏まえた今回の動きは高く評価されるべきと言えるでしょう。

 

日欧 EPA が締結に至った最大の理由は「双方に大きなビジネスチャンスが生まれること」

 トランプ大統領が “アメリカ・ファースト” を掲げ、それに沿った政策を実行していることもあり、「アメリカの保護主義を牽制する」との分析は正しいと言えるでしょう。

 とは言え、それは副産物です。なぜなら、日本と EU の双方にビジネスチャンスがなければ、経済連携協定を締結する理由がないからです。

 アメリカ(トランプ大統領)の保護主義を牽制することが主目的なら、EU は中国と『経済連携協定』を締結していることでしょう。中国の方が日本よりも経済規模が大きく、アメリカの保護主義政策に正面から反対していることが根拠です。

 「政治的な理由」ではなく、「ビジネス的な理由」が EPA を締結に至らせた大きな要因と言えるでしょう。

 

“偽物の神戸ビーフ” などを市場から排除できる画期的な制度

 日欧 EPA で「日本は主に工業製品の輸出」で、「EU は主に農業製品の輸出」で恩恵を受けると予測されています。つまり、日本の農林水産業は厳しい競争が待ち受けることになる訳ですが、マイナス面ばかりではないと NHK が指摘しています。

 日本とEUのEPAが発効すれば、GIと呼ばれる「地理的表示保護制度」に基づいて、日本とEUがそれぞれ登録した特産品が地域ブランドとして保護されます。

 日本の産品では「神戸ビーフ」や「夕張メロン」「市田柿」など48品目が対象になっていて、これらについては、特定の地域で生産するといった条件を満たしていないものは、「神戸ビーフ」などの名前で販売できなくなります。

 "KOBE BEEF" の名前は世界中で知られていますが、名称を無断で利用した商売をする輩が後を絶ちません。これが EPA の制度によって、合法的に市場から排除できるようになるのです。

 『品質』や『ブランド』を作るために汗をかいてきた生産者が報われる制度となるのです。市場規模は日本だけだった場合は1億人強ですが、それが EU 市場(約5億人)が追加されることになります。このチャンスを活かすための仕組み作りにより力を入れることが求められるでしょう。

 

TPP 首席会合での早期発効に向けた追い風になるだろう

 日欧 EPA は署名が行われましたが、発効に向けては国会(日本)と欧州議会のそれぞれで承認を得る必要があります。そのため、EPA が正式に発効するのは来年の通常国会になるでしょう。

 一方、国会で一足先に承認された TPP は18日から箱根で首席会合が行われます。TPP は「6カ国以上が国内手続きを終えた60日後に発効する」という協定であり、手続きを終えたのは日本とメキシコの2カ国であると日経新聞が報じています。

 「EU との EPA の署名が完了した」というニュースは TPP の早期発効に向けた “追い風” となります。経済協定ができることで同じルールで運用される市場規模が大きくなることで得られる効果は大きいと言えるでしょう。

 これまで過剰に保護されてきたことで商売を成り立たせてきた人々にとっては厳しい現実が待ち受けています。ただ、競争に敗けると決まった訳ではないのですから、他の業種を参考に市場競争での生き残り策を立案し、実行する転換期が訪れたと言えるのではないでしょうか。