ドイツ・メルケル首相、与党党首の座を退く意向を表明するも首相の座には留まる『院政』で延命を図る

 NHK によりますと、ドイツ・メルケル首相が2018年10月に行われた州議会選挙で自らが率いる与党が大きく得票率を下げたことを受け、今年12月の党首選挙には立候補しないことを表明したとのことです。

 ただ、首相の座には2021年まで留まる意向を示しており、誰が与党『ドイツキリスト教民主同盟(CDU)』の党首に就いたとしても、メルケル首相への風当たりが弱まることはないと言えるでしょう。

 

 ドイツ中部の州議会選挙で与党が得票率を大幅に落としたことを受けて、メルケル首相は、ことし12月に行われる党首選挙に立候補せず、首相として任期が終わる2021年に政界から引退する考えを明らかにしました。党首選挙でメルケル首相に批判的な候補が選ばれれば、政権運営は一層難しくなり、任期を全うできなくなるおそれも出てくることから、党首選挙の行方に注目が集まっています。

 メルケル首相の政治的生命は「ドイツ社会民主党(SPD)との大連立を継続した時点で風前の灯火」だったのです。

 支持者から批判が出ていたにも関わらず、『選挙』を恐れて『妥協』を選択したのですから、当然の結果になったと言えるでしょう。前回の連邦議会総選挙で示された結果が地方議会の選挙ででも再び示されただけに過ぎません。

 この抜本的な問題を解決しない限り、ドイツの迷走は続くことになってしまうでしょう。

 

議院内閣制のドイツで「首相」と「与党党首」が同一人物ではないという極めて異例の事態

 ドイツは日本やイギリスと同じ議院内閣制が採用された国であり、『与党の党首』が『首相』を兼務することが一般的です。(例:日本は安倍晋三議員が『与党・自民党の総裁』と『内閣総理大臣』を兼務)

 これは議会で国のトップが選出される制度であるため、議会で最大勢力を持つ政党(= 与党)の代表が『首相』に就任することになるからです。

 メルケル首相は州議会選挙での敗戦を受け、「与党の党首は辞めるが、首相の地位には留まる」と宣言しました。これは異例と言えるでしょう。日本で言うなら、安倍首相が「自民党の総裁選には出ないが、総理としての職務は続ける」と宣言することと同じだからです。

 『メルケル政権の方針』が有権者に支持されているなら、党の代表を(このタイミングで)辞める必要はありません。実際には「辞めざるを得ない状況」に追い込まれているのですから、首相という地位に固執しているに過ぎないと言わざるを得ないでしょう。

 

メルケル首相は『首相』の地位に居座り続けることは可能

 メルケル首相が「2021年まで首相を続ける」と宣言した理由は「内閣不信任案を出すこと自体に高いハードルが設けられているから」です。

  • 『内閣不信任案』の提出には「次期首相候補の選出」が必須
  • 内閣が議会を解散するには「信任決議の否決(=不信任の可決)」が必要

 日本では『総理の権限』で、衆議院を解散することができます。そのため、「国民に信を問う」という形で解散・総選挙に打って出るという選択肢が常に存在しているのです。

 一方のドイツでは『建設的不信任制』という形で簡単には議会が解散されないようになっています。「次期首相候補の選出」した上で、不信任案を可決すれば、解散・総選挙になる可能性はあります。

 しかし、“不信任案の提出条件” を満たすためには「閣僚ポストの調整」が必須であり、これが難航することは目に見えています。そのため、ほとんどの場合は現首相が任期を満了することになってしまうのです。

 

自らが抜擢した女性の党幹事長に禅譲し、『院政』を目論むメルケル首相

 メルケル首相が狙っているのは「アンネグレート・クランプ=カレンバウアー幹事長に禅譲し、院政を敷くこと」でしょう。

 クランプ=カレンバウアー氏は2018年2月にメルケル首相が幹事長に抜擢した人物であり、政策は “近い” 立場にあります。中央政界での経験不足が指摘されていますが、2021年まではメルケル首相が居座れるため、経験不足はカバーすることが可能です。

 つまり、メルケル首相にとっては『院政』を敷く上でクランプ=カレンバウアー氏は “格好の操り人形” なのです。

 クランプ=カレンバウアー氏が CDU の次期党首になれば、メルケル首相の政治的生命は保たれるでしょう。しかし、弊害もあります。それは「次回の総選挙で CDU/CSU が史上最悪の大敗を喫するリスクが高くなる」ということです。

 なぜなら、メルケル政権の方針に支持者が NO を選挙で突きつけているにも関わらず、「現行政策を続行する」との決断を下していることになるからです。『大連立』を継続することで「支持者離れ」を起こし、難民を呼び寄せたことで「AfD の躍進を招いた」という現実に目を向けなければなりません。

 

 ドイツの与党 CDU の党首に誰が選出されることになろうとも、メルケル首相の求心力が今以上に上がることはないと言えるでしょう。問われているのは「去り方」です。レームダックになることが確定的な中で、メルケル首相がどのような決断を下すのかが注目点と言えるのではないでしょうか。