アメリカ中間選挙:野党・民主党が下院を制し、トランプ政権がオバマ政権と同じ状況に立たされる

 アメリカ連邦議会の中間選挙が行われ、野党・民主党が下院で過半数を獲得したことが明らかになったと NHK が報じています。

 上院は引き続き与党・共和党が制したことで “ねじれ” が生じており、「政権運営が難しくなる」とメディアは伝えています。しかし、外交面は大統領の管轄であり、大きな変化は生じないと考えられます。

 また、野党に下院の過半数を取られることはオバマ政権(第1期)の中間選挙と同じ構図です。そのため、トランプ政権のレームダック化が急速に進行することはないと言えるでしょう。

 

 アメリカ議会の中間選挙について、上院は与党・共和党が多数派を維持する一方で、下院は野党・民主党が多数派を奪還することが確実になりました。

 (中略)

 今回の選挙で、今後2年間は議会の上院と下院で多数派が異なる「ねじれ」の状態が続くことになり、メキシコとの国境の壁の建設や、オバマ前政権が導入した医療保険制度、いわゆるオバマケアの撤廃などトランプ大統領の公約が一層厳しくなり、難しい政権運営を迫られることになりそうです。

 アメリカメディアの基本姿勢は『反トランプ』です。(FOX を除く)

 そのため、「難しい政権運営を迫られる」という主張には願望も含まれていると言えるでしょう。なぜなら、中間選挙では「与党が議会の議席を減らすことが当たり前」となっているからです。

 

「与党が上院の議席数を維持したこと」が快挙という現実

 直近のアメリカ連邦議会選挙で2大政党が獲得した議席数は下表のとおりです。

表:アメリカ連邦議会選挙の結果
下院 上院
共和 民主 共和 民主
2008年
(大統領選)
178 257 41 57
2010年
(中間:オバマ大統領)
242 193
(- 64)
47 51
(- 6)
2012年
(大統領選)
234 201 45 53
2014年
(中間:オバマ大統領)
247 188
(- 13)
54 44
(- 9)
2016年
(大統領選)
241 194 52 46
2018年
(中間:トランプ大統領)
201 224 51 46
注)暫定値であり、確定ではない

 大統領が所属する政党は『大統領選と同時に行われる連邦議会選挙』では議席を伸ばすが、『中間選挙』では議席を減らすことが一般的となっています。

 つまり、選挙前の議席を維持することに成功することが異例なのです。今回、与党・共和党は上院で選挙前の議席数(51)を現時点で維持することに成功しました。

 そのため、トランプ大統領が「素晴らしい成功だ」とツイートしたのです。これは負け惜しみではないということに留意する必要があると言えるでしょう。

 

『下院の予算決定権』は失ったが、『上院の人事承認権』は死守

 今回の中間選挙は与野党ともに「収穫」と「損失」があったと言えるでしょう。どちらの政党も今後の舵取りが重要な要素となります。

  • 大統領:外交権限(現状維持)
  • 上院:人事承認権(共和党)
  • 下院:予算決定権(民主党)

 共和党が得た最大の成果は「上院が持つ人事承認権を確保したこと」です。これは連邦最高裁の判事に80歳超が2名おり、彼らの後任者に保守派を送りこめることを意味しており、民主党にとっては頭の痛い問題と言えるでしょう。

 その一方で「予算決定に強い影響力を持つ下院は民主党が奪回」しました。これにより、トランプ大統領の公約実現を予算的な理由で阻止することが可能になりました。上手く立ち回ることでポイントを稼げるため、今後の振る舞いがポイントになるはずです。

 

反攻に転じたい民主党だが、リスクも存在する

 下院を奪回した民主党はこの成果を足がかりに、反攻に転じようとするでしょう。しかし、弱みを抱え込んでいる現状を認識しておかなければなりません。

 1つは「アメリカへの不法入国を企むキャラバン隊」です。「人間戦術で国境を突破しようとしている不届き者を侵入させないための国境警備費用予算を出せ」と議会で要求されると民主党は “踏み絵” を迫られることになります。

 予算を認めなければ、国内治安の悪化を招くことになるでしょう。逆に予算支出を認めると、トランプ大統領の公約である『壁の建設』を実質的に容認することになってしまうからです。“人質に取るべきではない予算” があるだけに、予算決定権が持つ重みを軽視していると痛い目を見る可能性があるのです。

 もう1つは「将来の大統領候補が中間選挙で敗けたこと」でしょう。共和党は現職のトランプ大統領が2020年も大統領候補になりますが、民主党は目ぼしい有力候補が見当たらない状況です。

 ベト・オルーク氏とアンドリュー・ギラム氏が “民主党の若手スター” としてメディアなどで持て囃されていたのですが、前者はテキサス州上院選で、後者はフロリダ州知事選でそれぞれ共和党候補に敗れています。将来を見据えると、地味にダメージを受けたと言わざるを得ないでしょう。

 

 トランプ大統領は “型破り” であり、与党・共和党の議員に対してでさえ攻撃的であるという現実から目を背けるべきではありません。むしろ、日本政府の足を引っ張るような迂闊な質問をするマスコミがもたらす悪影響の方が軽視できないと言えるでしょう。

 そのことを認識した上で、アメリカ議会の勢力図が変わったトランプ大統領との関係を良好な状態で維持することができるのかが問われていると言えるのではないでしょうか。