カナダのトルドー首相が「中国との自由貿易協定締結」を目指すと宣言、“三角貿易” の形でアメリカに喧嘩を売る

 シンガポールで行われている APEC に出席したカナダのトルドー首相が「中国との自由貿易協定の締結に向けて取り組む」と述べたとロイター通信が報じています。

 この方針はアメリカに喧嘩を売るものと言えるでしょう。なぜなら、中国はカナダを経由する “三角貿易” の形を採ることで、自国製品をアメリカに関税なしで輸出することが可能になる代物だからです。

 

 カナダのトルドー首相は15日、カナダと中国が引き続き「最終的な」自由貿易協定に向けともに取り組んでいくと述べた。

 北米自由貿易協定(NAFTA)に取って代わる新たな貿易協定、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)では、3カ国のうちの1カ国が、中国などの「非市場経済」国と自由貿易協定を締結した場合、残る2カ国が離脱しそれぞれ自由貿易協定を締結することができるとしている。

 どの国も『自国内の産業』を守ることを重要視していることでしょう。なぜなら、雇用問題に直結する案件だからです。

 主力産業と位置づけられている業界において、その傾向が強くなることは言うまでもないことです。この状況下でカナダのトルドー首相が「中国との自由貿易協定の締結に取り組む」と宣言したことはアメリカ・トランプ政権に対する “挑発” と同じと言わざるを得ません。

 

「アメリカの中国に対する貿易制裁」を “骨抜き” にすることと同じ

 カナダが中国との自由貿易協定を締結する狙いは「中国製品がアメリカ市場に送り込む際の代理人ビジネスで儲けるため」と言えるでしょう。

 アメリカ政府は中国に対して高い関税を設け、市場から中国製品を締め出しています。しかし、カナダは NAFTA の後継にあたる貿易協定『USMCA』を締結しているため、関税が障壁となることはありません。

 そのため、カナダが中国と自由貿易協定を締結することで “三角貿易” が可能になり、アメリカ市場に中国製品が溢れるという状況が起きる可能性があるのです。

  • 中国:カナダを経由することでアメリカ市場に関税ゼロで輸出できる
  • カナダ:経由地を提供することで手数料収入を得られる
  • アメリカ:関税による参入障壁が機能しなくなる

 カナダ市場は小さい上、主力産業が中国と重複することはありません。しかし、三角貿易の経由地として機能されてしまうと、アメリカなど主力産業が重なる国は多大な影響を被ることになります。これを一国の首脳が理解していない(と考えられる)のですから、驚きと言わざるを得ないでしょう。

 

「中国との自由貿易協定』を締結すれば、『アメリカとの自由貿易協定』を失効する恐れという現実

 トルドー首相の発言が物議を醸すのは「中国と自由貿易協定を締結すれば、その代償としてアメリカとの自由貿易協定を失う恐れがある」という現実を忘れている可能性があるという点です。

  1. カナダと中国が自由貿易協定を締結
  2. アメリカとメキシコが USMCA から離脱
    → カナダはアメリカとの自由貿易協定を失う
  3. アメリカとメキシコは USMCA の内容を維持した二国間の自由貿易協定を締結

 USMCA では中国など “非市場経済国” との自由貿易協定を締結した国が現れた場合、残る2カ国は USMCA から脱退・個別の自由貿易協定を結べると定義されています。

 もし、トルドー首相の発言が現実のものとなれば、アメリカ政府はその権利を迷わず行使するしょう。なぜなら、権利の行使を怠れば、国内産業にマイナスが生じることは明らかだからです。

 貿易戦争という形で中国と激しい “つばぜり合い” をしているアメリカが中国の肩を持つ振る舞いを許すことはないと考えられます。この点において、トルドー首相の姿勢はあり得ないものだと言えるでしょう。

 

『TPP で “ゴネ得” を狙ったカナダの立ち振る舞い』には日本も注意を払う必要がある

 カナダの外交姿勢ですが、アメリカだけを対象にしたものではありません。過去に TPP 11 の署名時に「自国の文化保護」を要求してドタキャンするなど前科があるのです。

 今回は “三角貿易” を利用してアメリカに喧嘩を売りましたが、同じ手段を TPP や日本にしてくることを念頭に置いておく必要があると言えるでしょう。

 ルールを守る一方で、カナダのようにルールを最大限活用して自国の国益を最大化しようとすることが外交の世界では当たり前なのです。それを踏まえ、ゴネ得を狙う輩を切り捨てる “覚悟” が日本には根本的に欠如していると言わざるを得ません。

 「譲歩」は相手を利する行為であることを自覚し、厳しい姿勢を見せることができなければ国が貧しくなるだけであることを政治家やマスコミは胸に刻み込んで行動する必要があると言えるのではないでしょうか。