大阪高裁で「タトゥーは医療行為ではない」との判決が出たが、『タトゥーによる感染症』への対応は誰がするのか?

 「タトゥーを施すのは医療行為ではない」と彫り師が訴えていた件で、大阪地裁が原告の訴えを認めたと朝日新聞が報じています。

 高裁判決ですので、最高裁で覆る可能性が残されています。また、高裁判決が確定したとしても、「タトゥーを施した際に生じた感染症への保障」の責任を誰が負うのかという点を明確にしておく必要があると言えるでしょう。

 

 医師免許がないのに客にタトゥー(刺青(いれずみ))を施したとして医師法違反の罪に問われた彫り師の増田太輝被告(30)=大阪府吹田市=の控訴審判決が14日、大阪高裁であった。西田真基裁判長は「タトゥーは医療を目的とする行為ではない」と判断。罰金15万円(求刑罰金30万円)とした一審・大阪地裁判決を破棄し、無罪を言い渡した。

 (中略)

 タトゥーは歴史や現代社会で美術的な意義や社会的風俗という実態があることを踏まえ、「医師の業務とは根本的に異なる」とし、医行為には当たらないと判断。彫り師に医師免許を求めれば、憲法が保障する職業選択の自由との関係で疑義が生じるとも述べた。

 さらに、医師法以外に法規制がないとされてきたタトゥー施術は、業界による自主規制や立法措置などを検討すべきであり、医師法で禁止することは「非現実的な対処方法」だと批判。施術を医行為とした一審判決の判断は「維持しがたい」と結論づけた。

 

タトゥーの「他人の身体を傷つける」という行為が問題

 他人の身体を傷つけることは『傷害罪』に該当します。ただ、世の中には “例外” があり、タトゥーを例外として扱うかが注目点となるでしょう。

  • 医師(医師免許):治療目的で他人の身体を傷つけられる
  • ボクサー(ライセンス制):他者を殴り怪我を負わせても訴追されない

 医師やボクサーが免許という形で制約がある一方、タトゥーの彫り師にそのような規制はありません。大阪高裁は「タトゥーは芸術」と原告側が 100% 納得する判決を下しましたが、「現状のままで良い」とは言えない問題が横たわっているのです。

 この点が是正されない限り、タトゥーに対する風当たりは厳しいままと言えるでしょう。

 

タトゥーによる感染症への『対策と保障』は誰が担保するのか

 次に、タトゥーを施すことによるリスクが全く論じられていないことが問題です。そのリスクは「感染症が移ること」です。

 なぜなら、衛生管理が行き届いているはずの医療機関でさえ、感染症が移る可能性が高い場所と厚労省検疫所が注意を発信しているからです。

 医療現場は感染症がうつる危険性が高い場所です。

  • B型肝炎やC型肝炎、HIV感染症は輸血や針刺し事故によっても感染します。
  • マラリア、デング熱など、通常は蚊に刺されることでうつる病気も、輸血や針刺し事故でうつることがあります。

 (中略)

 生活上の注意事項

  • 衛生管理の行き届いた医療機関を選びましょう。
  • 注射器など皮膚を傷つける医療器具を使用する場合、可能な限り医療機関に対して直接、安全な器具であるかどうか(滅菌されているかどうか)確認を求めてください。
  • ひげそり、注射針の使いまわしは危険です(血液を通じた感染が起こる可能性があります。)。

 “タトゥー・アーティスト” を自称する人々が医療機関と同じ衛生概念を持ち、実際に行動しているのでしょうか。杜撰なほど、感染症が広がるリスクが高くなるのです。

 現状は「衛生状態に問題がないこと」を担保する制度すら存在しないのです。また、タトゥーが原因で感染症を発病しても、医療保険で治療費はカバーされることでしょう。これは国民負担が増える原因であり、野放しにされている現状は大きな問題と言えるはずです。

 

「医師法に違反する」との判決が確定した “アートメイク” との違いはどこにあるのか

 高裁で「医療行為ではなく芸術」との判決が出たことに原告は喜んでいるようですが、判決が確定した訳ではありません。過去にはアートメイクが「医師法に違反する」との判決が出ているだけに、タトゥーとアートメイクの違いを明確にする必要もあると言えるでしょう。

 どちらも「医療行為」とは言えず、「芸術」というカテゴリに属しています。

 「タトゥーもアートメイクも同じ行為」と見なされれば、最高裁で逆転敗訴となる可能性があるのです。両者の違いを示すとともに、衛生管理の仕組みづくりなどやるべきことは多岐に渡ると言えるはずです。

 現状ではタトゥー・アーティストが既存の医療行為制度に “タダ乗り” しようとしている様相が色濃く出ているだけに批判が起きる状況は続くと言わざるを得ないのではないでしょうか。