フランス政府が『アライアンス継続』と主張するのは「日産を “食い物” にして国内の雇用情勢を維持すること」が目的だから

 日産自動車のカルロス・ゴーン前会長が逮捕されたことで、ルノー・日産・三菱のアライアンス(= 企業連合)に揺らぎが生じています。

 これに対し、フランスのルメール経済相が「関係を見直すべきではない」とテレビ番組で言及したと NHK が伝えています。発言の背景にあるのは「これまでと同様に日産を “食い物” にすることで、ルノーを通してフランス国内の雇用情勢を維持したい」という考えに他なりません。

 この点を認識した上でフランス側の主張を精査し、対応を決める必要があると言えるでしょう。

 

 ルノーの筆頭株主であるフランス政府でこの問題を担当するルメール経済相は、27日、地元のテレビに出演し、ルノーと日産の関係について「2社のお互いの出資比率は変えてはならない。2社のパワーバランスが変わることは望まない」と述べました。

 現在の2社の資本関係は、ルノーが日産の株式の43%余りを持つのに対し、日産が持つルノーの株式は15%で、ルノーのみが株主総会での議決権を持っています。

 フランス政府が『アライアンスの見直し』に否定的なのは「見直されると、自分たちが不利になる」と自覚しているからです。

 ルノーの企業価値は「日産の企業価値を損ねての協力や配当」によって高められています。見直しの対象が「日産の企業価値を損ねる行為」になることが自明であるから、フランス政府は「最低でも現状維持」と要求しているのです。

 

日産の “協力” がなければ、ルノーの経営は立ち行かない

 フランス政府が現状維持を要請する理由は「日産による “協力” で、ルノーの経営が成り立っているから」 です。大前研一氏が雑誌プレジデントのウェブサイトに掲載したルノー・グループの純利益は以下のとおりです。

画像:ルノーグループの収益

 ルノーが記録した純利益の約 40% は日産が寄与した分です。日産は配当を出していますので、ルノーは「日産の配当を受け取る権利」を有しています。

 また、ルノー本体の業績が伸びているように見えますが、これはフランス国内を始めとする『ルノーの工場』で『日産の車両』を生産しているからです。

 稼働率の悪いルノーの工場を動かすことはアライアンスとしては正しいでしょう。しかし、それは「日産の従業員を犠牲にして、ルノーの従業員を養っていることと同じ」なのです。この実態を “日産の経営陣” が是正に向けて動くことは当然のことと言えるでしょう。

 

ルノーの工場で「ルノー車」ではなく「日産・三菱車」を生産すれば、日産と三菱の労働者が割を食う

 自動車会社の経営が好調であるためには「工場で生産する車種が存在すること」が条件です。自社が保有する工場で自社製の車両を生産していれば良いのですが、ルノーの場合は異なるのです。

 「今年、ルノーは仏に対して総額14億ユーロ(1800億円)の投資を発表した」。8日に仏北部モブージュにあるルノーの工場を視察したゴーン元会長は、主賓であるマクロン大統領に語りかけた。同日、日産・三菱自はルノーの仏国内にある2工場に小型バンを生産委託すると発表した。

 ルノーは仏国内に4万人の雇用を抱える。雇用創出のため3社連合の「不可逆的な関係」を求める仏政府に対して、これまでもゴーン元会長は日産車の仏国内への生産移管などで応えてきた。

 ルノーはフランス国内の工場で日産車や三菱車を生産しているのです。これにより、ルノーは従業員を持て余すことなく、フランス政府も雇用情勢が悪化しないという恩恵を受けることができます。

 しかし、本来は生産するはずだった日産や三菱の工場は仕事がなくなり、収益性は悪化することになります。「材料の共同購入」などで強みを発揮すべき “アライアンス” が「ルノーの利益最大化および従業員の雇用確保」のために悪用されている状況は見落とすべきではないと言えるでしょう。

 

『日産の SUV』をルノーサムスン・プサン工場(韓国)に製造委託しているルノー

 ルノーが日産の収益を損ねているのはルノーサムスンに利益を転嫁していることからも明らかです。

 日産が北米市場で販売するローグは、2014年8月以降、年間10万台以上生産されてきた。これは当初計画していた年間8万台を大きく上回る成果だ。

 今年のルノーサムスン釜山工場の予想生産台数(25万台)の40%以上をローグが占める計算になる。

 だが、ローグの契約期間が来年9月で終了するのに伴い、ルノーサムスンは後続モデルを探すのに苦心している。

 ルノーグループが大株主として株式の79.9%を保有する同社は、ルノーと日産の連合関係を基盤にローグを生産してきた。

 日産が『北米市場で販売する SUV』を『ルノーサムスンのプサン工場(韓国)』で生産するメリットはありません。なぜなら、日産の従業員を使えないからです。

 ローグはアメリカ市場向けなのですから、テネシー州スマーナの工場で生産比率を上げることを最初に考えるべきでしょう。または日本国内で生産すべきことなのです。しかし、実態はルノーサムスンの従業員を食わせるために、ルノーが生産を委託しているのです。

 アライアンスの悪い面が出ていると言わざるを得ないでしょう。

 

 日産はフランス政府が背後にいるルノーとのアライアンスの見直しを図るなら、日本政府とアメリカ政府を味方に付けるべきです。特に、「年間10万台超の実績を持つローグの生産拠点」という武器がある訳ですから、これを最大限活用すべきと言えるでしょう。

 フランス政府が日産や三菱 “食い物” にして、ルノーに利益を付け替えようとしているのですから、徹底的に戦う必要があると言えるのではないでしょうか。