“六代目山口組の組長・若頭と同じ金融制裁を受けている人物” がトップに君臨するボクシングがオリンピックから除外されるのは止むを得ないこと

 ボクシングが「統括組織の組織運営などの問題」を理由に2020年の東京オリンピックでの実施競技から除外される可能性が現実味を帯びています。

 これに対し、競技実施を求める日本ボクシング連盟などが45万人の署名を提出し、IOC に競技の実施を求めたと NHK が報じています。ただ、署名の内容と提出先が間違っていることが問題と言わざるを得ないでしょう。

 なぜなら、問題を抱えているのは『ボクシングの統括団体』であり、現状で「2020年の東京五輪でボクシングの実施」を求めることは「問題に目を瞑るべき」と主張していることと同じになってしまうからです。

 

 IOC=国際オリンピック委員会が、ボクシングを東京オリンピックでの実施競技から除外する可能性を警告する中、29日、日本の競技団体の関係者などがボクシングの存続を求めて署名活動を行いました。

 IOCは、AIBA=国際ボクシング協会で組織運営などの問題が相次いでいることから分配金を停止する措置をとり、事態の改善が見られない場合は、東京オリンピックからボクシングを除外する可能性があることを繰り返し警告してきました。

 (中略)

 日本ボクシング連盟によりますと、これまでに全国の都道府県の連盟などから合わせて45万人分を超える署名が集まり、29日、連盟の関係者がIOCの担当者に署名活動についての報告書を手渡したということです。

 日本ボクシング連盟などの活動で残念なのは「IOC が懸念している問題」を解決するための動きになっていないことです。

 『国際ボクシング協会(= AIBA)の組織運営』が問題視されているのですから、抗議の対象は IOC ではなく、AIBA でしょう。問題点を放置したまま、「選手のためにも実施して欲しい」と要望するのは悪手だと言わざるを得ません。

 

IOC は何を懸念し、ボクシングを実施競技から外そうとしているのか

 IOC が2020年の東京オリンピックからボクシングを除外しようとしている理由は「国際ボクシング協会の組織運営」です。ガバナンスなど組織統治における問題があることが大きな理由です。

 AIBA (=国際ボクシング協会)は2018年11月に会長選を行い、ガフール・ラヒモフ会長代行が無投票で当選しました。このラヒモフ氏が “曰く付きの人物” であることも大きく影響しています。

 なぜなら、ラヒモフ氏はアメリカ財務省から金融制裁を科されている人物だからです。制裁が科されたのはオバマ政権時の2012年2月のこと。「中央アジアでのドラッグ・シンジケートの重要人物」との理由で制裁の対象となっています。

画像:金融制裁の発表文

 ちなみに、ガフール・ラヒモフ氏と同じ制裁は六代目山口組の司忍組長と高山清司若頭にも科されています。「同じプレスリリースで示されている」という現実をボクシング関係者は重く受け止め必要があると言えるでしょう。

 

『山口組のトップが総括するスポーツ競技』をオリンピックで実施すべきとの主張する “根拠” は何か?

 IOC が AIBA (=国際ボクシング協会)への分配金を止めたのは「スポンサーからの批判に耐えられない」と判断したからでしょう。なぜなら、アメリカ財務省の金融制裁には「アメリカ人が当該人物との取引を行うことを禁じる」というものも含まれているからです。

  • アメリカ人はラヒモフ氏との取引は禁止
  • 五輪スポンサー:アメリカ企業 → ICO → AIBA (ラヒモフ会長)

 オリンピックはアメリカの企業が大口スポンサーです。つまり、ICO が AIBA に分配金を渡してしまうと、金融制裁が科されているラヒモフ会長にまで資金が流れてしまう可能性があるのです。

 ガバナンスが機能していない組織に資金が渡るのですから、ラヒモフ会長の手に渡ると見て問題ないでしょう。したがって、「アメリカ人がラヒモフ氏と取引を行ったこと」と同じことになり、「制裁に違反した」との理由でアメリカ当局から罰せられるリスクが出てくるのです。

 懲罰的賠償が科される恐れがある訳ですから、「AIBA に配慮するなど絶対に許さん」とスポンサーの態度が硬化するのは当然です。この状況で「選手たちのためにも競技を実施すべき」という主張は逆効果をもたらす可能性があることをボクシングの当事者は認識しておく必要があるはずです。

 

「ボクシング競技実施を求める45万人分の署名」は AIBA に送り、ラヒモフ会長の即時辞任を要求すべき

 日本のボクシング関係者がやるべきは「IOC への陳情」ではなく、「AIBA ラヒモフ会長への辞任要求」です。それができないなら、オリンピックの実施競技から除外されても文句は言えません。

 「選手たちのためにも競技は実施されるべき」と主張しても、「組織統治に問題がある競技団体の種目はオリンピックで実施するに値しない」と反論されればそれまでです。

 情に訴え出すと歯止めが効かなくなるから、ルールが存在しているのです。“そのルールを破っている現状” が IOC から懸念されているのであり、是正すべきは AIBA の統治体系やガバナンスなのです。

 そのため、集めるべきは『競技を実施すべき』という署名ではなく、『ラヒモフ会長は即時辞任せよ』という署名です。また、送り先は IOC ではなく、AIBA です。

 「実施競技から外れる」ということは五輪スポンサーにとっても痛手を被る訳ですから、「問題のある振る舞いを行う国際団体のトップを追い出すためにサポートして欲しい」と頼めば、味方になってくれる可能性のあるスポンサーはいることでしょう。

 

 現状のままでは「2020年の東京オリンピックでボクシングが実施競技になる可能性は低い」と言わざるを得ないのではないでしょうか。