福島沖の洋上風力発電で失敗した丸紅に尻拭いをさせることなく、同様の新規案件を認めるのは「補助金の食い逃げ」を許すことと同じ

 日経新聞によりますと、環境への意識の高まりから洋上風力発電に熱い視線が注がれているとのことです。

 記事では日立造船などのチームが『パージ型』と呼ばれる浮体式設備の実証実験に取り組む姿勢を好意的に報じていますが、これは問題と言えるでしょう。なぜなら、紹介されている事例の事業主体は『丸紅』であり、『丸紅』は福島沖の洋上風力発電で失敗をしている立場だからです。

 まずは自分たちが “先に手掛けた案件” の尻拭いをしてから、新規案件に手を出すべきでしょう。そういう形に制度を変えなければ、補助金の食い逃げをされることになるからです。

 

 海風を利用して発電する洋上風力発電に熱い視線が注がれている。四方を海に囲まれた日本は立地にも適しており、地球温暖化問題の高まりとともに国を挙げて導入を促す動きが活発だ。日立造船などのチームは「バージ型」と呼ばれる水深が浅いところに設置できる新たな風力発電を開発した。9月に北九州市の響灘に設けた。2030年ごろの本格的な稼働を目指している。

 (中略)

 ただ費用対効果の側面などで事業を縮小する動きも出始めている。2012年から経済産業省が福島県沖で実証実験している浮体式では、風車の回転力を発電機に伝える変速機などで不具合が起こるなど技術的課題を解決できず、3基のうち1基を撤去する見通しだ。

 記事を最後に「洋上風力発電の今後の展望」が大阪経済部・川口健史記者の署名で書かれています。

 『パージ型(= 浮体式)洋上風力発電』の土台部を建設したのが日立造船・堺工場ですから、ある意味で “提灯記事” と言えるでしょう。ただ、問題なのは日立造船が協力している事業の主体となっている企業です。

 

浮体式洋上風力発電に積極的なのは『丸紅』

 日経新聞で紹介されている『パージ型(= 浮体式)』の洋上風力発電に積極的なのは大手商社の丸紅で、福島沖でのプロジェクトの “インテグレータ” を務める中心的立場にあります。

 福島沖での洋上風力発電プロジェクトを実行することには何の問題もありませんが、実証実験の大部分が失敗という事実は重く受け止める必要があるでしょう。しかも、3基のうち、1基はトラブルによって撤去が決定しているからです。

 つまり、丸紅は福島沖でのプロジェクトが失敗した総括をしなければならない立場にあるのです。ところが、現状は「福島沖での失敗」は横に置き、響灘(北九州市)で新たな実証実験をする主体(PDF)となっているのです。

画像:響灘の風力発電受注者

 日経新聞は「パージ型洋上風力発電の台座を日立造船・堺工場が建設したこと」を理由に洋上風力発電を好意的に取り上げていましたが、発注企業のスタンスに問題があることは明確に指摘する責務があると言えるでしょう。

 

『補助金が出る実証プロジェクト』に複数地域で関わることで「補助金の食い逃げ」が可能になる

 丸紅のスタンスが「姑息」と言わざるを得ないのは「補助金の食い逃げ」をする可能性が極めて高いからです。

  • 鹿島港(神栖市)沖:採算が合わないと撤退(2017年1月)
  • 福島沖:実質的に失敗。1基はトラブルで撤去が決定
  • 響灘(北九州):平成30年稼働予定

 丸紅が主体的に関わった洋上風力発電のうち、2件は問題を抱えています。神栖沖の洋上風力発電は2012年8月に事業者として選定されましたが、2017年1月には「風力が少なく、採算が合わない」と撤退しています。

 『ビジネス』として行動している商社なのですから、失敗した福島沖のプロジェクトから逃げるのは時間の問題でしょう。

 ただ、プロジェクトの統括的立場にある企業が逃げれば、行き詰まることは確実です。残された地元が大きな負債を抱えることになりますが、逃げ出した企業が別の地域で同じ洋上風力発電プロジェクトを新規に実施できる実情は問題ありと言わざるを得ません。

 なぜなら、「新たな実証実験」という名目で国などからの補助金を手にすることが可能になるからです。地元が補助金を出して企業を誘致することは地元の自己責任ですが、国が同じ分野のプロジェクトで新規に補助金を出すことは “食い逃げ” を黙認していることと同じであり、防ぐ必要のあることと言えるでしょう。

 

まずは丸紅に福島沖プロジェクトの “尻拭い” をさせる必要がある

 丸紅は商社ですから、「売り込むネタを作り出したい」という動機が根幹でしょう。洋上風力発電が実用化されることで自分たちが関われるプロジェクトができることになり、それによって収益を得られるからです。

 ただ、丸紅は日立造船のように機材を作るメーカーでなければ、大手電力会社のように発電をする立場でもありません。

 そもそも、洋上風力発電は太陽光発電などと同じ FIT (=全量固定買取制度)がなければ、立ち行かない分野なのです。日経新聞が取り上げた実証実験が成功して、20円/kWh を下回る可能性があるというもので、現状は40円台です。

 つまり、電気代を高めるだけの “お荷物” であり、世間一般の大部分にとっては負担が増加するだけです。『太陽光発電バブル』は電力消費者が強制的に負担させられることで発生しましたが、それと同じことが起きる恐れがある洋上風力発電を国の予算を使って推進する意味は少ないと言えるでしょう。

 依頼した機器が “設計どおり” に納品されたのであれば、プロペラが回らない原因を特定するのは「依頼主」の役割です。メーカー側に責任転嫁することは論外です。

 

 そうした意味においても、補助金を食い逃げすることができていまう現状を是正し、丸紅には福島沖の尻拭いをさせる必要があると言えるのではないでしょうか。